世界の最後

熟内 貴葉

世界の最後

 燃え盛る街。とあるビルの屋上。そこには二人の影があった。

 一人は毅然と、一人はボロボロにながらも懸命に立っていた。

「もう終わりにしましょう、デビルフェイス ……いや、計兎けいとさん」

 青いローブを纏った魔術師は、依然として無言を続ける赤いローブを羽織った仮面の魔術師に問う。

「……大きくなったな、茶兎留さとる。」

 真の名前を言われ、仮面を外した素顔は諦念の表情を浮かべながら応えた。実に20年振りの再会である。

「禁術の解除をしに来たのか?」

「当然です。この世界を無くさせる訳にはいきませんから」

「何故、この世界に執着する。全てをリセットして、新たな世界を作る。魔術を使うものが君臨し、それ以外はその下で暮らしていく。我ら魔術師の理想郷ではないか」

「失礼ながら、僕はそんな兎小屋のような世界は微塵も望んじゃいない。例え、衝突が起ころうとも、必ず理解できる人たちと共に歩む、この世界が大好きですから」

 愚直な茶兎留の意見に計兎は思わずため息をつく。

「惜しいな。奥義魔術を扱えるようになるまでに成長したというのに、この世界は強き者が上に立つ。それが摂理だというのに」

「この力は屈服させるものではありません。弱き者を助ける。それが師匠が教えてくれたことですから」

「甘いな。それが正しいなら戦争も差別も、この世界から消えてるはずさ」

 水と油の議論が続く。説得にはどちらも応じないと確信する。

「お前は、変わらないな」

「変わったのは、貴方の方です」

 計兎は仮面を再び被り、茶兎留も戦闘体勢に入る。

「禁術の解除は、俺の命が尽きるまで。ありきたりな設定だが、ボロボロのお前と完全防備の俺。それでもやるか?スペクトル」

「暗い世界に光が差す、その日まで。僕は戦う。デビルフェイス」

 最後の火蓋が切られた。空中で魔術の衝突がこれまで以上に激しい。力無き者は祈るしかなかった。それが最後の希望の光を絶やさない最大の行為だった。

「避けているばかりだそ。もう、師匠がお迎えに来るんじゃないかあ?」

「あなたを倒してからじゃないと安心して逝けないですからね!」

 しかし、限界に近かったのは確かである。相手の光弾をかわすのに精一杯にである。防戦一方で、ついに地面へと叩きつけられてしまう。

「これで最後だ!スペクトル!」

 デビルフェイスの手には巨体な黒い火球が生まれる。意識が徐々に薄れるのを感じるスペクトル。その瞬間不思議なことが起こった。

「何だ。魔力が上がっていく……」

 スペクトルと体が光だす。自身も、何が起きてるか理解できないが、力が溢れ出てきているのは感じる。相手が謎の現象に動揺している間に、素早く体勢を立て直す。

「これで最後です。デビルフェイス」

 スペクトルの背後に無数の魔法陣が現れる。そこから光の矢が待ち構えている。同時に詠唱する。

「黒魔術奥義"終焉之炎ゴモラ"!」

「白魔術奥義"聖炎之矢グリッター"!」

 お互いの魔術がぶつかり、辺りは閃光に包まれる。


 これが後に語られる『ラビット事件』である。被害が甚大で復興にはまだ時間がかかるが、魔術師達が率先して手伝いながら進んでいる。このままいけば私は安心してあの世に逝けるだろうな。

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世界の最後 熟内 貴葉 @urenaitakaha

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