音楽のはなし

 ぼくは物心ついた時から音楽に触れていた。とはいってもクラシックとかのかっこいいもんじゃなくて、王道のJ-POP。あとは両親の趣味の洋楽。聴きなれていたから、身近にあったからか。とにかくぼくは音楽が好きで、特に歌うことが好きだ。それは今も変わらない。


 ぼくはつい最近まで受験生だったわけだけど、受験の時は多忙だったのと、周りの人間関係がどうにも鬱陶しくて、うざくて仕方なかった。ぼくは心の中で何度も何度も嫌いな奴に暴言を吐いて、殺してしまいたくなった。でも、そうやって殺したいと思うたびに、ぼくの心が殺されていった。確実にぼくの心は弱っていって、いつからか心の痛みを感じなくなって、世界から急速に色が失われていった感覚があったのを覚えている。

 

 「もう、しにてえ…」


ぽろりと、自分の口からそんな言葉が出て、それをかき消すように枕に顔をうずめて絶叫して、情けなくて泣いて。明日がどうでもよくなって、深夜3時24分ごろにベッドから起きだして、僕は音楽を聴きながらボーっとしていた何をするでもなく、ただ音楽を聴いていた。でも、プレイリストから聞こえた声が、音が、ぼくの心に色を取り戻した。


 たった一つだけを君はもっている


 ずうっと前から大好きな人の曲だった(名前を出していいのかはわからないので具体名は出さないことにする)。両親も、ぼくも大好きで仕方なくてずっと応援している人。その歌う声が、どうにもそばにいてくれるようで、手を引いてくれているようで、君は君だと言ってくれているようで。


 朝日が昇る頃にはぼくの心は晴れやかで、顔を洗おうと洗面所の前に立った時、腫れた目がぼくがどれだけため込んでいたのかを示すようにぼくの顔を見ていて。思わず吹き出して。ああ、「救われる」とはこういうことなのかと。しみじみと思った。

 

 よくよく考えてみると、これまでにぼくは何度も心を殺していた。


初めていじめられた時。

中学受験をしていた時。

努力が報われなくて中学に落ちた時。

努力を笑われた時。

両親と関係がよくなかった時。


何度も何度も。心を殺して生きていた。抜け出し方なんてわからない。がむしゃらに生きていただけだ。それは昔も今もこれからもきっと変わらない。でも、それでも僕は素敵な言葉と音楽と生きてみたいと心から思うわけで。


過去のぼくへ、

その時は笑えないくらいつらかったけれど今は、ちゃんと笑えているよ。

言葉と音楽と人と生きるぼくは、きっとつらいことがあっても生きていけるさ。


なんてまた、笑ってみている。深夜3時。




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