おさんぽのはなし

 あれはいつだったか、なんて思い出すことに時間がかかるほど昔のことじゃないし、そこまでボケてはない…はずだ。ぼくが中学生になったばかりの頃、小さな小さな「生命体」がやってきた。それは小さくて、ふあふあで、ずうっと見ていても飽きないかわいらしい毛玉のようなワンコだった。


 茶色の毛玉ちゃんは、雪が溶けるか溶けないか絶妙な時期にやってきた。毛玉ちゃんが家に来ることが決まった時はソワソワしていて、家にきたら思いっきり遊んであげよう、お世話しよう、そう思って準備をしてやっと対面した手のひらサイズのその子は家に来てから3秒で寝てしまって拍子抜けしたのを覚えている。いや、3秒は盛ったかも。でも体感それくらいだった。たぶん。


 その毛玉ちゃんは見る見るうちに成長して、すっごい美人のワンコ様になってしまった。淡い茶色とこげ茶の瞳のコントラストがものすごくきれいで、ずっと眺めていられる。今、ぼくの膝の上にはその毛玉ちゃんが白目をむいて安心したように眠っている。暖かくて、幸せだ。でも、それを恨めしそうに見るもう一匹の白い毛玉くん。毛玉ちゃんより体が大きいけど、毛玉ちゃんに怒られるからぼくに近づけないのだ。

毛玉くんは毛玉ちゃんより後に来たワンコで毛玉ちゃんより口元が緩くていつもニコニコしている。なんというか、これをどうやって書き表したらいいんだろう…あ、アホというのかもしれない。アホそうな笑みを視線を合わせるだけで向けてくる。なんだこの毛玉は、天使か。


 そんな二匹が愛おしい。その二匹と散歩する日々も愛おしくて幸せだ。

冬だからこそ感じる温もりが願わくば、ずっと続けばいいのにとふとした時に思う。どうにも失うことが怖いのだ。なんて、それはきっと僕だけが思ってるわけじゃない。きっとこれを読んでくれている人も失うことが恐ろしく感じることもあるだろう。どうにも足がすくんでしまうこともあるかもしれない。でも今は、失うことを恐れるより、手元にある温もりを大切にしてほしい。この二匹を見ているとぼくはいつも暖かくなれる。それだけで、頬が緩むんだ。


 「さんぽ」という単語に反応して、くるくると楽しそうに回る二匹。葉っぱが好きで、かさかさ鳴らしたくて落ち葉に突っ込んでいく毛玉ちゃん。話しかけると屈託のないアホそうな笑顔をむけてくる毛玉くん。


長生きしてほしいなあとぼくはつぶやいた。


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