好きまでの距離6 Side 赤松太陽
狭く薄暗い通路を抜けると、急に大きく広がり、青白い光に照らされた巨大な水槽が現れる。
三階層をぶち抜けて、大きく高く……。
その水槽には、色とりどりの大小様々の魚達が泳いでいる。
「キレイ……凄いね?」「うん……」その圧倒的な迫力に単純に圧倒された僕らは、暫くの間、見入っていた。
「ねぇ太陽君?」ぼ〜と水槽を見つめながら柚子さんが呟く。
「どうしたの?」
「これ、何時まででも見ていて良いんだよね?」
不安そうな顔をして僕の顔を覗く柚子さんを不思議そうな顔で見る。
「モチロン良いと思うけど?どうしたの?何かあった?」
「私が子供の頃……って、今も子供だけど」小さく舌を出して笑う柚子さん。うん、可愛い。
「学校の社会見学で水族館に来た事あったけど、その時、時間があるからドンドン行ってって言われて……」そうだよな、一人が立ち止まったら、皆足止めになっちゃうしな。
「うん、そう言う事あったかも?」
「そうしなきゃいけないのは分かっているけど、熱帯魚とか大水槽とか本当は、じっくり見ていたくて……私、帰って悲しくて泣いちゃったんだ……」水槽前の手すりに捕まって、泳いでいる小魚の大群を見ながら柚子さんは言った。
キラキラ輝きながら泳いで行く小魚の大郡に目を丸くして、口を開いたまま見ていた柚子さん。
途中で口を開けているのに気付いて恥ずかしそうに慌てて口を閉じていた。
「そっか……じゃあ今日は、ゆっくり見ていても良いからね……って僕が決める事じゃ無いけど」僕が頭を掻きながら言うと、
「そんな事……せっかく太陽君と見に来たのに」
申し訳なさそうにいう。
「そうだね……二人なんだし二人で決めよ?」
「うん、それじゃあ?」
「僕は、しばらく見ていたい。柚子さんは?」僕は握っていた柚子さんの手のひらを握る。彼女は、僕の顔を見返した。
「私も見ていたい!!」満面の笑顔で返してくれた。
「綺麗……」「綺麗だよね……」二人、時間を忘れた様に大きな水槽を見ている。
「あっエサやりの時間だって!!」水族館の飼育スタッフがエサを撒くらしい。柚子さんが嬉しそうに僕の腕を引っ貼る。
「沢山の魚が凄い……うわっ!!」水槽に大きな黒い影が出来たかと思えば、それはクジラ?サメ?とにかく魚。
「柚子さん、あれってもしかして!!」
「うん!!ジンベイザメ!!凄い!!大っきい!!」彼女も手をパチパチ叩いて喜んでいる。
「何食べてるのかな?小エビ?」
「沖アミやプランクトンだよ。あぁ見えて大人しい性格何だって……」僕の質問に淀みなく答えてる位、良く勉強してるし、好きなんだろうな……。
僕は、ここに入る前に、ちょっとした分からない事でも何でも柚子さんに聞いて見ようと思っていた。
「この魚、綺麗だね?何て魚だろう?とか」
その度に、嬉しそうに彼女は答えてくれる、考えてくれる。それが嬉しかった……。
「あっ……餌やりの時間終わりみたいだね……」柚子さんの残念そうな声。
「そうだね、そろそろ……」僕が
言いかけた時、柚子さんがお腹を抑える仕草。
「きっ聞こえた?」恥ずかしそうな顔。
「いや何も聞こえなかったけど?」何にも聞こえなかったけど、そんな言い方したら……分かっちゃうよ。
「ねぇ柚子さん?そろそろお腹空いたし何処かで何か食べない?」僕の言葉に、
「……やっぱり、聞こえてたんじゃない……」顔を赤くして、柚子さんはセーターのスソで顔を隠した。
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