重なったのは影じゃない9 Side 白波柚子

 バスに乗った私達は、空いていた席に座り水族館に向かう。


 最初は、混んでいたけど、三十分位たってちょっとずつ席が空き始める。

「そろそろ座ろうか?」太陽君からの声に小さく頷く。


 太陽君は、言葉に出さずにそっとニコリと笑って手で窓際を指差す、窓際どうぞって事何だろうな?


 何となく紳士って言葉が頭に浮かんで、英語でなんだっけ?え〜と……。


「どうかした?」


「なっなんでも……」アハハ、バカな事考えちゃた。


「窓際、ありがとう」窓際の席に座って、ふと……そうだジェントルマンだ!!なんて、今更どうでも良い事を思い出す。


 もう、私何やってんだろう……?


「今日の柚子さん、素敵な格好だね」


 そんな私に、太陽君は何気なく褒めてくれる……褒めてくれた!?


「あっ、ありがと」すっ素敵!?嬉しい!!嬉しい!!やった!!やった!!お姉ちゃん、ありがとう!!


 あまりの嬉しさに、何も言えずに硬直していると、


「あっ、そうか!!ゴメンね!!」隣に座った太陽君は、さも酷い事でも言ったかの様に、済まなそうに謝って来て……。どうしたんだろう?何か変な事言ってたかな?


「柚子さんは素敵な格好だけじゃなくて、その……全部、素敵だから」


 太陽君は、私の方は見ないで真正面を見ながら言ってくれた。


 ……はい!?


 私は、池の鯉みたいに口をパクパクさせると、

「アッアッアッ、あの、その……」


 耳まで赤くした私は、何も言えなくなってしまって……。


 頭が真っ白になってしまって……。


 何か言わなきゃ!!何か言わなきゃ!!


「太陽君は何時も格好良いけど、今日は凄く格好良いですね!!そのジャケットとか、黒いジーパンとか!!」


 うわっ、妙に早口になっちゃった。


 私、大丈夫?気持ち悪く無い?あーもう、変な汗かいてるよ~!!


「イヤイヤ、僕なんかが!!」


「それを言うなら、私だって!!」


 お互いに、相手の方を見ないで言い合って……。


 そっと、私は太陽君の方を見る。


 茶色のシャツの上にクリール色のセーターを着て、その上にダークグレーって言うのかな?黒に近い灰色のジャケットを着ていて……。


 と言うか、今気付いたんだけど、髪少し茶髪に染めて無い!?


 その、美容院とか行ったのかな!?


 短めの髪は清潔感があって、まゆ毛も整えてあるよね!?二学期終わりまでは、結構、長かったよね?


 ヤダッ!!無茶苦茶格好良いんだけど!!


 心臓の音がバクバクする。


 私なんかが、隣にいて大丈夫かな!?


「あっそうだ、さっきのココア」


 そうだ太陽君が、さっき買ってくれたココアがあったんだ。


 慌ててコートのポケットからココアを取り出すと、スッとそのココアを取り上げられてしまう。


「エッ?」何か不思議な物でも見る様に太陽君を見ると、


 プシュ……。


 太陽君がココアのプルタブを開けてくれて、そのまま私に返してくれた……。


「あっ、ありがとう……」


「その素敵な服に、ココアが跳ねるといけないから」私を見てはにかみな太陽君。


 ジェントルマンだ!!


 今度はタイムラグなく、そう思った。





















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