重なったのは影じゃない8 Side 赤松太陽
「ゴメン、遅くなっちゃったね?」
僕が小走りに近づいていくとスマホを見ようとしていた柚子さんがパァと明るい顔をして笑顔で小さく右手を上げた。
今日の柚子さんの格好は凄く可愛い。
ブラウン系の色のワンピースの上に裾の短いコートを着てる。マフラーも付けてる完全装備だけど、今日寒かったもんな。
「大丈夫だよ、まだ三十分前だし私が早く来過ぎただけだから」
「そっか、なら良かった……あっそうだ、これ」
僕は、来ているコートのポケットから缶のココアを取り出すと柚子さんに渡す。
「あっ!!ありがとー!!」嬉しそうに微笑むと僕の手から缶のココアを受け取る。
「アハハ、あったかい……」柚子さんはココアを抱き締めると目を細める様に微笑んだ。
「ありがとね」ちょっと恥ずかしがりながら笑う柚子さん。
そんな、彼女に僕は軽く頭を下げる。
「ゴメンね寒い中、本当はもう少し早く来てたんだけど……」
「そうだったんだ……あっ!」何かに気付いた様に顔を少し赤くする柚子さん。
「クラスメートの子達が来てたから、ちょっと恥ずかしくて」
そう、僕は待ち合わせの十五分前には来ていたんだけど、クラスメートの三人が柚子さんと話していたから少し恥ずかしかったんだ。
少ししょげた様子の僕の腕に温かい温もりが……顔を上げると、にこやかに笑う柚子さんが僕の腕を掴んでいる。
「ビックリしちゃうよね?でも、期を使ってくれてありがとう」
そして僕の手を引くと、
「行こ、太陽君!!」
「あぁ!!」
僕らは二人歩き出す。
待ち合わせたショッピングモールには、定番のクリスマスソングが流れ、淡い日の光にクリスマスイルミネーションが反射してキラキラ輝いている。
それを嬉しそうに眺める柚子さんを横目で見ながら、今日は楽しみだねとか、天気が良くて良かったとか当たり障りない事を言いながら、心の中で『あぁ、何でもっと気の利いたセリフが言えないんだ』とか『もっと格好良い事言えよ』とか自分に駄目出しをしながら歩いて行く。
だって、しょうがないだろ?今日の柚子さんは本当に素敵で、コーヒー色のスカートにグレーのコートが本当に可愛くて、もちろん普段の柚子さんが可愛く無いのかって言ったら、もちろんそんな事無いんだけど、僕なんかが隣にいても良いのかな?って悩む程度には今日の彼女は可愛過ぎて……。
今日乗っていくバス停に着く頃には、段々会話する事が無くなって来て。
少し黙りがちになった僕の慌てる様子に気が付いたのだろうか?
「太陽君……」少し心配そうな顔で……。
まずい、何か言わなきゃ、何か彼女を楽しませなきゃ……。
考えれば考える程、言葉が出なくて頭が真っ白になって……。
「あっこの曲……」柚子さんが調度ショッピングモールから漏れ出した音楽に耳を寄せる。
ケ・セラ・セラ ワットエバー ウィル・ビー ウィル・ビー♪
軽やかな音楽に、優しい歌声。
歌詞なんて知らなくても、何処かで聞いた事がある特徴的なケ・セラ・セラって言葉。
「この歌、ママが大好きなの」柚子さんは目を閉じてハミングしながら、
「ケ・セラ・セラ、何とかなるさだったかな?凄く好きな言葉!」
柚子さんは満面の笑顔で、嬉しそうに僕を見ると、
「私達らしく行こ!無理に頑張るんじゃなくて、無理に笑うんじゃ無くて……」
そんな素敵な笑顔に僕は少し見とれてしまう。
「らしく無かったかな?」
「よく分からないけど無理して見えた」
頬をポリポリ掻きながら、参ったなと苦笑いすると、
ケ・セラ・セラ〜♪
街なかにさっきの素敵な歌声が流れていく。
「ケ・セラ・セラか?僕も好きになったよ」
何とかなるさ、少し心に染み込んで、余裕が出来た気がした。
「でしょ?今日一日、宜しくね太陽君!!」
嬉しそうに笑う柚子さん。
「こちらこそ、宜しくね柚子さん!!」
嬉しそうに笑う僕。
バスが来るまで、歌の話で笑い合った。
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