重なったのは影じゃない7 Side 白波柚子

 街を彩るように様々なデコレーションが金銀光り輝いて、クリスマスを彩っている。


「綺麗……」

 思わず、私の口から出た言葉は何のひねりもない感嘆の言葉。


 もう、冬って言っても良いよね?


 街中のベンチに私は一人腰掛けている。


 コーヒー色のレトロワンピースの上にグレーのダッフルコートと白いマフラー。


 今日の私の勝負服だ。


 いつもの様に、お姉ちゃんに相談した。


『これにニット帽をかぶれば完璧だけど、完璧過ぎない方がいいんだよね』とは、お姉ちゃんの言葉。


 どうして?と聞いたけど、『後で、きっと分かるわよ』って笑いながらはぐらかされてしまった。


 何度も、街中にある鏡に自分を写しては前髪を直したり前髪を直したり、前髪を直したり……。


 ちょっと早く来過ぎたかな?


 今日はクリスマス・イブ、前から約束していた太陽君と水族館に行く日。


 えへへ、楽しみ……。


 待ち合わせ時間、一時間前。


 ちょっと、早く来過ぎたかなぁ?そして、前髪を直す。


 まだ……かなぁ?アクビを一つ、昨日良く眠れなかったからな……。


「あれ?柚子っちじゃん」

「あー、白波さんだー!!」

「柚子ちゃんだ」


「はっ?はわっ!!」

 少し、ボーッとしていた私は完全に不意を突かれてビクッと驚いてしまった。


 そちらを見ると、クラスメートの女の子が三人いた。


 友達と言える程良く話す訳じゃ無いけど、三人の内の一人安西ナナさんは、誰とでも仲良く話すタイプでクラスで良く話したりする。


 彼女は、私の事も柚子っちと言って親しくしてくれていた。


「ここ、こんにちは!!」

 私は慌てふためいて挨拶をすると、三人は興味深そうに私を見ると、


「うっわ、柚子っち可愛い!!」


「本当、私服スッゴいオシャレ!!」三人は私を見て「キャー!!」と叫びながら、目を爛々とさせている。ちょっとだけ優越感、お姉ちゃんありがと。


 とは言っても基本人見知りな私、その勢いにタジタジになっていると、

「ねぇねぇ柚子っち!!私達これからカラオケ行くんだけど柚子っちも一緒に行かない?」

 えっ?今から?どうしよう……私は今日……。


「あっ、私……」

 慌てた私が、どうしようかと悩んでいると、

「ちょっとナナ、白波さん困ってるじゃん」

「え〜だって〜!!」ナナちゃんと友達の今井七海いまいななみさんが二人でワイワイしているのをもう一人の宇野翔子うのしょうこさんが微笑ましく見ている。


 どうしよう、赤松君との待ち合わせ時間が……。


「なのねナナ、今日はクリスマス・イブなんだよ?」


「それは知ってるわよ、だから?」


「はぁ〜、だからナナは鈍いって言われんのよ」今井さんが深いため息をついている。


「えっ、何よ?」ナナちゃんが少しムッとした顔をしているのを見て、


「あのね、クリスマス・イブに女の子がお洒落して一人にいるって何故だと思う?」こんな事まで言わせるなと言わんばかりにナナちゃんの頭に手をポンと置くと、今井さんが「ねっ?」と言って私を見てニッコリ笑う。


「あっ、そのぅ」

 私が答えられずに困っていると、

「アッ!!」ナナちゃんが何かを思い付いた様な顔をして慌てて、頬を赤くする。


「柚子っちゴメン!!そっかクリスマス・イブだもんな!?」ナナちゃんは拝む様に手を合わせると私に謝って来た。


「えっ?あの……」急な展開について行けずに狼狽える私に彼女は続けた。


「いーなー柚子っちは、クリスマスデートかぁ」


「デ……イヤッあの!!私は!!」デートという言葉に赤くなって狼狽える私に、ナナちゃんは私の肩をポーンと叩くと、

「でっ、誰となんだ?付き合ってんのか?何処に行くんだ?」矢継ぎ早に言われてアワアワしていると、突然今井さんがナナちゃんの頭にチョップをする。

「だから、白波さん困ってるって言ってるでしょ?良いから来る!!」「ちょっと、痛いってー!!」

 そう言って今井さんはナナちゃんの後ろ襟を掴んで引っ張って行く。

「柚子さん色々ごめんね〜!!また学校でね〜!!」宇野さんが手をヒラヒラさせて一緒についていく。


「なによ七海!!気にならないの?」「本当にナナは馬鹿ね?」「何よー!!」「さっき、見かけたでしょ?うちのクラスの……」「えっ?あー!!赤……」ワイワイ騒ぎながら彼女達は歩き去って行った。


「本当、嵐みたいだったな」あっそうだ時間!!

 慌てて、スマホの時計を見ようとすると、


「お待たせ柚子さん!!」


 そこには右手を上げてニッコリ微笑んだ太陽君がいた。







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