重なったのは影じゃない2 Side 赤松太陽

 ビックリした。


 凄くビックリしたんだ。


 白波さんの言葉、アレってどういう意味だったんだろう。


 いや、言っている意味はわかるんだ。


「赤松君も、負けてない位、格好良いからね」


 白波さんの言葉、耳の奥に残る音。


 何故、彼女はあんな事を……。


 駄目だ、恥ずかしくて白波さんの顔をマトモに見る事が出来ない。


 嬉しいし、恥ずかしいし、胸が苦しい様なドキドキする様な……。


 駄目だ、頭がボォーっとしてる。


 少し、一人になって落ち着こう。


「あっあの、すみません、トイレ借りたいんですが?」

 白波さんに話しかけると一瞬だけ、身体ビクッとさせて、


「あっ、うん……二階のトイレは、この部屋を出て左だよ。階段を登り切った所に洗面所があったでしょ?その隣」


「あっ、ありがとう」


 立ち上がって、部屋を出ようとすると、美甘さんと白波さんのお母さんが「いってらっしゃーい」と手を振って来る。


「赤松君って……」「そっかな?」「でもさ……」

 僕が、部屋のドアを閉めて廊下に出た途端に、後ろから白波さんの家族三人のガヤガヤした声が聞こえて来て少し気まずさを感じながらも、頭をスッキリさせないと、頭を振りながらトイレに向かう。


「アレって、どう言う意味なんだろう?」


『赤松君も、負けてない位、格好良いからね』頭の中で、何度もリフレインされた言葉は、真っ赤になっている白波さんの顔と重なって僕を冷静にさせない。


 何故、僕は、こんなに落ち着か無いんだろう?


 白波さんの言葉が嬉しかった?


 それは、そうだけど相手は人気日本代表バレーボーラー何だよ。そんな人と比べられても……。


 お世辞だとしても、気を使ってくれたのが嬉しかった?


 そもそも、白波さんはお世辞なんて言うタイプじゃないし、赤くなる前の彼女は、少しムッとしていた。


 何故なんだろう?もしかして、もしかしてだけど僕が美甘さんの彼氏さんと比べられたのが嫌だった?

 もしくは悔しかった?


 何自惚れてるんだ。俺みたいな奴が格好良い訳が無いだろう?


『兄貴は、ちゃんとしてれば凄く格好良いだけどな〜美鈴も言ってたぜ』

 弟が、来ていく服を選ぶ時に言っていた言葉。


 ちなみに美鈴ちゃんってのは、弟の彼女。良く家に遊びに来るんだけど、何故か僕に懐いている。


 ショートカットの可愛い子だ。


 それは、今は良いとして弟が言うには『俺の兄貴なんだから格好悪い訳無いだろう?』だそうだ。


 卑下する僕に、憤慨した弟に言われた。


『兄さんが格好悪いって事は、俺まで格好悪くなるって事なんだ。自分が格好悪いなんて言うんじゃねぇよ』


 そして、僕の肩口にパンチすると、


『気になる娘の家に行くんだろ?シャキッとしろよ!!』


 僕は、何となく嬉しくなって、弟の頭にポンと手を乗せると一言。


「頼むよ弟、俺を格好良くしてくれ」


 僕は、この時思ったんだ。僕は白波さんを……。


 トイレから出た僕は、少しはスッキリとした顔をしているだろうか?


 背伸びしたってしょうがない。


 格好良い自分なんて分からないけど、せめていつも笑顔でいられる自分でいたいって思ったんだ。


 僕の事を褒めてくれる彼女の為に……。















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