僕らは近づいていく10 Side 赤松太陽
文化祭の図書室当番、僕と白波さんは一日目の午前中になってしまった。
まぁ、人なんか来ないだろうな?と思っていたら、白波さんが、たこ焼きやアメリカンドッグを買って来てくれた。
タダ券だから、お金は良いよって白波さんは言ったけど、流石にな……。
なんか無かったかな?
その時、図書室に来る途中の屋台にある物があったのを思い出す。
アレなら良いかも!?
慌てて席を立ち上がると、
「そうだ!!白波さん、ちょっと待ってて、すぐ戻るから!!」
後ろから白波さんの、廊下は走らない様にとの声が聞こえる。
聞こえたその瞬間だけ速歩きにして、廊下に出た瞬間、走り出していた。
少し思う、何が僕を走らせているのだろうか?
僕は決して熱くなる方じゃ無い。
人とのつながりを怖がって、誰かに馬鹿にされるのが嫌で、一人で壁を作って。
いまだに、白波さん以外と話す時はどもってしまう。
白波さんは、特別なんだ……つまらなかった学校生活を変えてくれた特別な友達なんだ。
友達……だよね?
そうこうしている内に目的地についた。
良かった、まだ人はあまり居ないみたい。
「これ、二つ下さい!!」 自分でも、びっくりする位、大きな声が出たな。
僕の声に、少し慌てた売り子の生徒が慌てて袋に二つ入れてくれた。
カランと透き通った音が鳴る。
これ、オマケだからと、売り子の生徒は袋にカラカラと氷を詰めてくれた。
今度は、買った物があるから、ゆっくりと廊下を歩こう。
さっき少し走ったから少し暑い。
喉が渇いたなぁ、ようやく着いた図書室のドアを開ける。
図書室は僕が出て行った時と同じ様に、水を打った様に静かで……。
そして、いつもの場所で小さく手を上げる白波さん、
「お待たせ」
と言うと、「お帰りなさい」とニコリと笑ってくれたけど、何となく顔が赤い気がして……。
どうかしたのか聞こうと思ったけど、何となく
聞き辛くて。
「ただいま」って、少し恥ずかしかったけど、返事をすると、白波さんの目線は僕の買って来た袋に視線が行っている様だ。
「はい、これ」
僕は、揺らさない様に持って来た袋を白波さんに手渡す。
渡すとき、カランと鳴った音に、白波さんは嬉しそうに、
「凄い!!これラムネなの!?私初めて実物見たかも?」
袋の中を開けると二本のラムネ瓶とそれに氷が詰められている。
「凄い氷だね?二本なのに良いのかな?」気を利かせて入れてくれた砕氷が少し溶けて水になっている。
僕は笑いながら、
「冷たい内に飲もう?」とラムネ瓶を一本、白波さんに手渡す。
手渡す時に、手と手が少しふれる
「「あっ」」冷たいラムネ瓶、触れた手が温かくて、柔らかくて……。
思わず、熱いものでも触った様に二人同時に手を離して慌てる。
「あっ、あの……飲も!!」
僕が慌てて提案すると、
「あの、待って!!私ラムネの飲み方分からないの、飲み方教えて?」
お互いに目は逸らしたままで。
「そうだね、まず蓋を使ってビー玉を押して開けるんだ」
僕は、ラムネの蓋でビー玉を押し込んだ。
直ぐに炭酸が吹き出してくる。
それを、グッと飲むと、
「危なかった〜」
その様子が面白かったのか、笑われてしまった。
「その蓋を使って……そうグッと押し込んで、気を付けてね!!……」
ラムネを飲んで、たこ焼きやアメリカンドッグを食べて、二人で静かに話をする。
文化祭の間、他に誰も来ない図書室で、ただ座って待つだけの時間が、とても充実した楽しい空間になった。
これも全部、白波さんのおかげだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます