僕らは近づいていく8 Side 赤松太陽

 あっ……力が抜ける……。


 白波さんの、『許します!!』の声に僕は良かったと大きくため息をついた。


「良かった〜」


 僕はベットに寝そべると、


『そんなに気にする事じゃないよ』


 スマホ越しの声は優しく、緊張でキリキリしていた胃に温かく広がっていく。


「でもさ、いざ電話しようと思ったら、急に気になって」


『電話番号位いくらでも教えるに……』


「あはは、そうなんだけどね」

 笑って誤魔化しながら言うけど、僕にはその勇気が無くて……。

「直接聞けたら良かったんだけど……」


『ごめんね赤松君……そうだよね?よく考えたら私も多分、勇気が無くて聞けないかも?』

「だよね、僕もちょっと怖かった」

『だよね』


「フッ」

『フフッ』

 何となく可笑しくなって、僕らは笑ってしまった。


『赤松君、ねぇ外見て』

「ん?ちょっと待って?」

 僕は、部屋の窓を開けるとベランダに出る。


「見たよ……あっ!!月が……」

『うん!!月がキレイ!!』

 少し興奮気味の白波さんの声がスマホ越しに聞こえる。

 月は大体今、北西に位置していて空気も澄み始めるこの時期とてもうちのベランダからはとてもキレイに見える。

「うん!!月がキレイだ!!」

 何となく嬉しくなって、僕もオウム返しに叫ぶ。

『本当、月がキレイ……あっ』

「どうしたの?」

 白波さんの途切れた声が気になって思わず問い掛けると。

『ううん、なっ何でもないよ』

 少し慌てた声の白波さんに不思議そうにしながら月を見ている。


 本当に月がキレイだ本当に……。

「あっ」

 少し前の白波さんのリピートの様に僕も声を上げてしまう。

『どっ、どうしたの?』

 白波さんの声に、

「なっ、何でもないよ」

 これまた、少し前の彼女のリピートをしてしまう。

『そっ、そっか……』

 僕は気付いてしまった。


 多分、彼女も。


 昔、夏目漱石が英語の教師をしていた時に生徒に、日本人にI love youは強すぎる、月が綺麗ですねとでも言っておきなさいと言ったとか言わないとか?


 今ではラノベとか漫画で有名なセリフで僕も読んだ事がある位だ。


 多分、白波さんもその事に気付いたんだろう。


 だから僕は、

 気が付かないフリをした。


 今は秋の終わり、もう少ししたら文化祭。


 僕らのクラスは喫茶店をやるらしい。


 クラスの陽キャ達が中心となって色々やっているけど、僕も白波さんも店の飾り付けの準備や手伝いをしているだけだ。


 それに、当日一日目の午前は僕らは図書室の見張り当番をする事になっている。


 白波さんのエプロン姿とか見たいな、なんて思っていたから少し残念だけど、まぁ当日は図書室で二人でノンビリ出来るから良いとしよう。


「もうすぐ、文化祭だね」月を見ながらスマホのスピーカーのボタンを押してベランダの脇の小さなテーブルに置く。

『うん、準備も思ったより順調で当日には間に合いそうだよね?』

 スマホのスピーカーから、白波さんの可愛らしい声が聞こえる。

 僕はベランダの手すりに方杖を付きながら

「白波さんのエプロン姿見たかったな」

 なんて言うと、

『もう、そんな冗談ばっかり言うんだから』

 恥ずかしそうな声がした。

「絶対、似合うのにー」

『もう、私みたいなのが着たって可愛く無いです』

 今度はすねた声。

「料理はしないの?」

『うち両親共働きだから、お姉さんと交代で』

「凄い!!料理出来るんだ!?」

 僕の言葉に白波さんは慌てて、

『簡単な料理だけだよ!!そんなに上手く無いんだから』

 恥ずかしそうな声、

「そっか、白波さんの料理かぁ、良いな食べて見たいな……」

 僕らの会話は取り止めなく、その後も一時間程続いた。


 親にちょっと怒られた。














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