僕らは近づいていく4 Side 赤松太陽

「宵の明星?それなら夜更けの明星つまり木星の事だね」


「じゃあ開けの明星は?」


「夜明けの木星の事だね」


「水槽の水ってどれくらいで入れ替えるの?」


「1〜2週間かな?でもね、全部は変えないの」


「どうして?」


「急に水質が変わると魚がビックリしちゃうんだよ?」


「そっか、急に環境が変わると魚も対応出来ないって事か」


 誰も来ない図書室。


 あれから一ヶ月、自分でも分からない位、真面目に図書委員を続けていた。


 僕らは、小声で話し合った。


 お互いの趣味の事、好きな本の事、学校の事。


 僕は、こんなに女の子と話事なんて無かったから、その……、楽しくてしょうが無かった。


「でも、良かった」白波さんの言葉に、不思議そうな顔をすると、


「私、男の人って苦手で、普通にお話なんて出来ないと思ってたんだ」


「あっ、それは僕もそう」


「赤松君も?」


 白波さんの嬉しそうな言葉に僕も照れながら、

「僕なんて女の子どころか、人と話すのだって苦手でさ、今こうやって話せてるのが信じられない位」


「そっか、良かった……。私ね、小さい頃から、このくせ毛とニキビで男の子達にからかわれてばかりで……私も、もっと可愛く生まれたかったな」


 うつ向いて自嘲気味に笑う白波さんに、


「そんなの気にする必要無いよ」


 思わず、声が出た。


「白波さんの事ちゃんと見てない奴らの言う事なんて気にしなくて良いよ」


「赤松君……」


「だって、白波さんは優しいし、その……凄く可愛いと思うよ」


 なんで、こんな言葉が出たのだろうか?僕にも良く分からなかったけど言わずにいられなかった。


「やっ、やだな私なんて、髪の毛天然パーマのくしゃくしゃでニキビだらけだし、根暗だし」


 白波さんは焦りながら、慌てながら、自分なんか可愛く無いと力説する。


 慌てる理由は何となく分かる。


 彼女は、他の人から褒められる事に慣れていないんだ。


 僕だって同じだし、でも……。


「白波さんが、そう思っても僕は白波さんは、可愛いしキレイだと思うよ。まぁ、僕なんかに言われても嬉しく無いと思うけど」


 何だろう、いつもの人見知りな僕が、こんな事言うなんて、自分でもビックリする位だ。


 正直、恥ずかしいし何言ってるんだと思う。


 多分、顔は真っ赤だ。


「嬉しいよ!!」


 思わず大きな声が出たのか、白波さんは慌てて両手で口を塞ぐ。


「あの、その……赤松君に言われて、その……凄く嬉しいです」


「そっ、そうなの?なら良かった……かな?」


 マズイマズイ、顔がニヤけてしまう。


 僕はテーブルの下で自分の太ももをツネって痛みで、笑顔を消そうとする。


「私、可愛いなんて男の子から言われたの初めてだし。その……嬉しいです」


「アッ、アハハ……」


 何も言えなくなって、笑ってごまかす僕。


「あのね」


 急に真面目な顔をする白波さん。


「赤松君も凄く優しいし、その……カッコいいと……思います」


「えっ?ええ!?」


 その後、直ぐに下校を告げるチャイムとアナウンスが鳴らなかったら、僕達はどうなっていたのだろうか?


「下校時間だ、帰らないと!!」


 この言葉は、どちらが言ったのか覚えていない。


 ただ、お互いがお互いの顔を見る事が出来ずに夕焼けに染まった様に真っ赤な顔をした僕らは、慌てて後片付けを始めたのだった。






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