day31.遠くまで
泊まりがけの仕事で、M県まで来ている。
新幹線で二時間。かなり遠くまで来たと思ったが、日本中この猛暑で気候では三百五十キロメートルも移動したとは感じられなかった。
同居人は家で留守番である。がっちりやらなければならない事やスケジュールが決まった仕事でもないので一緒に来ても良かったのだが、彼は土地の精霊であるから、あの街を離れられないとのことであった。
お昼過ぎには今日の分の仕事が終わったので、仕事相手と昼食を取りつつこの街を案内してもらうことになった。
駅前から続く賑やかなアーケード街を、ここが安くて盛りがいいとかTVが取材に来たとか色々教えてもらいながら歩く。
初めて来る場所なのできょろきょろしながら仕事相手についていくと、賑やかな通りの一角に小さな神社があるのが目に止まった。
こんなにも店がひしめき人通りが多い場所でも、残っている神社がある。うちの周辺はわりと自然も残っているような住宅街なのに、どうして我が家の位置にもともとあった神社はなくなってしまったのだろう。
「あ、その神社ですか? 金運アップで有名な神社なんですよ。お参りしていきます?」
いつの間にか足を止めていた私を見て、仕事相手が声をかける。気遣いだけ受け取って、静かに首を横に振った。
金運には興味はないし、同居人と遠くまで行ってみたい、という願いはきっとこの神様では叶えてくれないから。
文月のパッチワーク 白瀬るか @s_ruka
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