day26.すやすや
これが夢だと分かって見る夢のことを、明晰夢というらしい。言葉だけ知っていて、脳科学とか心理学的な意義はさっぱり分からないが。
何故そんなことを急に思い出したのかというと、今いるこの世界が夢だと気付いたからだ。だって私が立っている横の空中を、庭のビニールプールで飼っている魚が泳いでいるし。
以前からたまにこういうことはあった。経験上、夢での意識がはっきりしていればしているほど身体は深く眠っているらしく、いつもよりすっきりと目覚められることが多い。いま現実の自分は、さぞかしすやすやと熟睡しているのだろうな。
周囲は鬱蒼とした森である。地面は湿った落ち葉に覆われ、上を見上げれば空が見えないほど木々が枝と葉を伸ばしている。夢診断なんて興味はないが、この夢は私の陰気なところが現れているのかもしれない。
とりあえずこんな陰鬱な森は抜けてしまいたい、と一歩踏み出す。すると、魚が慌てたように私の周りをぐるぐると高速で泳ぎ出す。まるでこの先に行ってはいけない、とでも言うかのように。というか、こんなに早く泳げたのか、この子。
「うーん……」
魚の行動は気になるが、どうせ何があっても夢だし。まず死ぬことはないだろうと回り続ける魚を捕まえて小脇に抱え、森を進むことにした。
魚は小脇に抱えられても、何かを訴えるようにびちびちしている。少し可哀想だが、ここは夢の中であるから、この子も本人(魚?)ではなく私の記憶とか潜在意識とかの一部なのだろう。
それほど深い森ではなかったらしく、すぐに開けた河原へ出た。角の取れた丸い石が多く、川幅が広いから中流から下流にかけた辺りだろう。
川は音を立てず、ゆっくりと流れている。そういえば先ほどから一切の音が聞こえないことに気づき、今更ながら不気味に感じてきた。
川の向こうには、こちら側の陰鬱さと打って変わって色とりどりの花が咲き乱れている。鮮やかな花の絨毯が、地平線までどこまでも続いているのを見て、なぜだかぞっとして鳥肌が立った。
河原、川、その向こうの花畑。その三つをまとめられる言葉を私はひとつだけ知っている。
臨死体験。すやすやと眠っている内に、私は死んでしまったのだろうか?
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