day23.静かな毒
夜中、ふと目が覚めた。
横になった体の上に、自分のものではない腕の重みを感じる。耳元ではすうすうと同居人の健やかな寝息が聞こえ、ひとつのベッドをふたりで使うのも随分慣れたと寝惚けた頭で思う。
首筋にかかる吐息からも密着した背中からも、温もりを感じない。こういうところで、ああ、このひとは本当に人間ではないんだな、と感じる。
目の前に投げ出されている手が、少し透けている。比喩ではなく、輪郭を残してうっすらと下にあるシーツが見えている状態だ。
本人は気付いているか分からないが、最近よく肩先や足などが透けていることがある。指摘しようとした時には元に戻っているし、当人は元気そうなので言うに言えないでいる。
もし、このまま姿が見えなくなって、存在まで消えてしまったら。彼の透けた体を見る度に、そんなことを考えてどうしようもなく不安になる。
少し前まで彼のことなんてこれっぽっちも知らなかったのに、こんな気持ちになるのは不思議だ。今では彼の居ない生活が恐ろしいなんて、まるで知らず知らずの内に静かな毒に侵されていたみたいだ。
いつまでこうしていられるのだろう。正体不明の恐れを抱えて、彼の半透明の手に、そっと自分の手を重ねた。
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