day22.賑わい
今日は朝から、梅雨が戻ってきたかのような雨である。洗濯などは後にして、掃除など他の家事を済ませようとした矢先、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
最近色々あったので、用心のためドアスコープを覗く。が、ドアの向こうには誰の姿もなかった。
いたずらか? とチェーンをつけたままそっとドアを開ける。――やはり、誰も居ない。
「おい、どこを見ておる」
ドアノブの辺りから声がした。視線を下げると、青いレインコートのフードを目深に被った子供が立っていた。
「誰、きみ?」
先日の朝顔の一件もある。子供だからといって油断できないとチェーン越しに応対すると、ふん、という子供には似つかわしくない偉そうな声が返ってきた。
「我が眷属が世話になったというからわざわざ顔を見に来てやったのに、ご挨拶だな」
眷属? 最近どこかでその言葉を聞いたような……。
「あ、あの日傘の……。ということは、もしかして雨師さま?」
「ようやく分かったようだな。というワケで、中に入れろ」
まあ、知り合いの知り合いだから、とチェーンを外したが、あの日傘のひとを知り合いカウントしてもいいものか悩む。まあ、彼女もこの子も害意がなさそうだからいいか。
「ふぅーん」
フードを深く被っているから顔つきはよく分からないが、どうにも敵意のある視線が突き刺さる。たぶん初対面なんだけどな。
「あの子はこんなのが好みなのか。ふーん、存外薄い顔がタイプなのじゃな」
そういえば、彼女の想い人に似ていると言われていたっけ。同居人は、雨師さまは彼女に惚れている上で、彼女が婚約者を想い続けるのを赦しているとの説を唱えていたが、強ち間違ってはいないのかもしれない。って、誰が薄い顔だ。
ピンポーン。再びチャイムが鳴る。
「邪魔するぞ」
返事をする前に勝手に入ってきたのは、姉の婚約者だった。先日来たばかりだというのに、何か忘れ物でもしたのだろうか。
「あれ、お義兄さんどうしたんです?」
「今後のことを考えると、お前を懐柔した方が得策だと考えた。お前経由で彼女の好きなものとか聞ければ色々楽だろうし、何かよく分からないが人外と同居して上手くやってるようだし、その辺参考に出来ればと思って」
ほら、と数駅先の有名パティスリーの紙袋を手渡される。本当にそつがないというか、根が真面目で勤勉なのだろうな。
「それだ」
「え?」
雨師さまが紙袋を受け取った私を指差す。ケーキが食べたかったのだろうか。
「お主、我にも人間の嗜好やものの考え方について教えるがよい。あの子も我が眷属となって長いが、もとは人間じゃ。お主の方が気持ちが分かるじゃろう」
「ええー……」
「どうでもいいが、俺が先約だからな」
「まあ、皆で話せば良かろう」
わいのわいのと、家主を置いて彼らは家に上がり込む。まさか、この家が人外たちの恋愛相談で賑わいを見せる日が来るとは。
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