day19.爆発

 あれ以来、同居人がべったりくっついて離れない。

 さすがに風呂トイレにはついてこないが、それ以外は家中どこでもついてこようとする。

 あの時の様子を見るに、昔、誰か大切な人が急にいなくなりそれきり会えなかったことがあって、それがトラウマになっている、そんな感じがする。記憶喪失の原因は、案外その辺りにあるのかもしれない。

 元はと言えば自分の軽率な行動が原因なので、強く離れてくれとも言いにくいし、なんだかんだ一緒に居ることで今まで以上に家事など手伝ってくれるので、実はあまり困っていない。

 それでもさすがに、原稿中もそばでずっと見てられるのは気が散るというかなんというか。いや、顔がいいからとついつい眺めてしまう自らの集中力のなさが悪いのは分かっているのだが。

 そもそもが絶賛原稿やりたくない病の最中なのもある。気晴らしとネタ探しを兼ねて、隣で頬杖をついている同居人に根掘り葉掘り、昔のことを訊いてやろうかと思うくらいには軽いスランプに陥っていた。……何かの拍子に、気晴らしじゃ済まないような重い話が飛び出しそうで、実際には訊けないが。

 何かいい気分転換でもないかな、と伸びをしつつ辺りを見渡す。すると丁度、体を捩った先の本棚に、天体観測についての本があった。

 天体観測。本だけ買ってやったことはないが、なんか良さそうな気がする。


 そんなわけで、本を手に二階のベランダにやってきた。

 ある程度分かっていたが、それなりに都市部に近い我が家からでは、明るすぎて星がよく見えない。それでも、目が慣れてくると明るい一等星なら見つけられるようになってきた。

「急に星が見たいとは、占いでも始める気か?」

「まあ、人にはただ星を見たいときもあるんだよ」

 スランプになったときとかね。私の適当な答えにふうん、と気のない返事が返ってくる。あまり楽しそうでもないが、戻ろうとも言わない。ただ、何も言わずに黙って付き合ってくれる。

「あ、流れ星」

 普通の流れ星だったら、そう言い終わる前に消えていただろう。しかしこの流れ星はどんどん尾を引いて、最後は弾けるように一際大きく輝いて消えた。

「うわ、今の火球? 爆発したよね? うわー写真撮っておけばよかった」

 珍しいものが見れた嬉しさに、年甲斐もなくはしゃいでしまう。その横で同居人がくく、と笑う。

「昔は流星や帚星の類は不吉とされていたのに、今の人間はえらく喜ぶのだな」

 面白い、と言うその微笑は、そうした人間の変化を楽しむようにも、哀しむようにも見えた。

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