day11.飴色

 友人とショッピングモールで待ち合わせしている。

 やや遠くの郊外に住み車で移動する友人と、メインの移動手段が電車・バスの私が落ち合うのにちょうどいいのがこの場所だったのだ。

 少し早く着いたので、待ち合わせ場所の本屋をうろつく。人の少ない専門書コーナーをゆっくり眺めていると、棚と棚の間に一枚の紙切れが落ちているのを見つけた。

 この手の本に時たま挟まっている、訂正のお報せでも落ちたか、と拾い上げてみると、それはエコー写真だった。

 暗い中に浮かび上がる扇形の中に、なんだかもやもやしたものが写っている。裏面を見てみると「19××年7月11日、12週」と書いてあるので、妊娠中の胎児のエコー写真なのだろう。

 写真は色褪せてセピアというか、全体的に独特な飴色になっている。こんな昔の写真を、色が変わるまで持ち歩くなんてよっぽど大事に思っているのだろう。落とし主が探しているかもしれないし、後で店員さんに届けよう。

「よっ、久しぶり。……何それ?」

 待ち合わせ時間ちょうどに現れた友人が、目敏く私の持つ写真を見つけた。

「ああ、赤ちゃんのエコー写真の落とし物。すごい昔のを今でも大事に持ち歩いてるみたいだし、サービスカウンターとかに届けたほうがいいかなって」

「ちょっと見せて」

 なぜか友人は難しい顔をして、矯めつ眇めつ受け取った写真を眺めている。

「これ、ほんとに赤ん坊のエコー写真か?」

「え?」

 今までの人生で全く縁がなかったので、裏書きなどの雰囲気でなんとなくそうだと思っていたが、二児の父である友人には違って見えるらしい。

「いや、俺も詳しいワケじゃないけどさ。十二週だともっと人っていうか胎児らしい形に見えてたと思う。それに、エコー写真って普通感熱紙で、アレってレシートとかと同じだからほっとくとすぐ印刷されたものが消えちまうんだよ。嫁さんがどうにか紙のまま保存しようとアレコレしてたから覚えてる。で、これも手触り的に感熱紙みたいだけど、ちょっと薄くなってるけどラミネートとか何もしてないのに全然まだはっきりしてるだろ? なんか、ちょっとおかしいなって。まあ、写っているものがよく分からないのは撮影とか印刷の失敗だとしても、そんなのを日付まで書いて後生大事に持ち歩いてるヤツって何なんだろうな」

 そう言われると、急にこの紙切れが気味悪く思えてきた。

 なるべく早く手放したくて、申し訳ないが本屋の店員さんに落とし物として押し付けてしまった。


 友人と別れ、最寄り駅からの帰り道。あたりは夕日で赤く染め上げられている。

 駅と家の中間地点辺りに差し掛かったとき、歩道の真ん中に見覚えのある一枚の紙が落ちていた。

 まさか、と思い立ち止まる。本当は見たくもなかったが、操られたように指先が紙片を拾い上げる。

 触った感覚は同じ感熱紙のようだ。が、今度はエコー写真のような扇形の区切りはなく、ただ一面飴色に塗られていた。それにところどころ白いノイズというか、モヤみたいなものがかかっている。

 裏面にはひとこと、「19××年7月12日、失敗」。

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