【初夢シリーズ】月夜の歌声、浜辺の真珠

茶ヤマ

月夜の歌声、浜辺の真珠

こんな夢を見た。


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ある夜。

散歩をしていた僕は、浜辺で小さな真珠色の物を拾った。

波打ち際で、転がっていたのを見つけたんだ。

それは、本当に小さい小さい物で、最初は、貝の欠片が月の光を反射しているのだと思っていた。

けれども、それは違ってた。


小指の先よりも小さい、その真珠色の物は、手に持ってみるとほんのりと暖かい気がした。


僕は急いで家に帰って、その真珠色の物を瑠璃色のコップに入れた。

ついでに、海水も汲んできて入れた。


そっと窓際に置く。

月の欠片がここにあるように思えて。

あまりに乙女チックなその考えに、僕は急いでかぶりを振った。


それから、毎日、学校から飛んで帰るようにしては、コップの海水を変えた。

毎晩、月の光を当てて眺めていた。

僕には、確信めいたものがあった。


この真珠色の物は卵だ、と…。


果たして、7日目の夜。

真珠色の物からは、小さなモノが生まれた。


オレンジがかった乳白色の髪をもったキレイな女性の顔。

7色に光るウロコのある下半身。


………人魚だ。


人魚が何を食べるかなんて、僕は知らない。

だから、試しに学校のメダカの餌を上げてみた。


食べた。


僕は毎日こっそりと、メダカの餌を一つまみほど拝借していた。

瑠璃色のコップの海水は、きちんと毎日、取り替えた。


2日目の夜、人魚は僕を認識した。

…人魚はわずかに微笑んだ。


3日目の夜には、コップのふちに座り僕を覗き込むような目で見た。

…けれど言葉は発しなかった。


4日目の夜には、銀鈴のような声で歌った。

…僕の知らない言葉だった。


5日目の夜には、僕の言葉を理解していることがわかった。

…もっと広い物に移そうか、と言うと、ここでいい、と言うように首を横に振った。


6日目の夜には、コップの中で鮮やかな泳ぎを見せてくれた。

…7色に光るウロコと、オレンジがかった乳白色の髪が、月光を通したコップの色と相まって、本当にキレイだった。


僕と人魚は2週間、一緒の時を過ごした。

人魚は、毎晩、きれいな声で歌ってくれた。


僕は。

人魚のことを誰にも言わなかった。


10日目の夜を過ぎた辺りから、元気がなくなっていた。

海に帰るかい?と言っても、首を横に振るばかりだった。

それでも、毎晩、銀鈴の声は聞かせてくれた。



14日目を迎えた日。

僕が、いつものように学校から飛ぶように帰ると

瑠璃色のコップの底に、人魚は沈み、横たわっていた。

…ウロコは、もう7色に光っていなかった。

オレンジがかった、乳白色の髪は、ただの真っ白い糸にしか見えなかった。


僕は月が昇るまで、コップを前に、ただぼんやりと座っていた。



月が。

僕とコップを照らした。


小一時間、座り込んでいたけれど、僕はコップを持って浜辺へ出た。

そうして静かに、海に人魚を返した。

悲しかったのに、涙は出なかった…。



次の日。

仲の良い友人一人に、ものすごく寿命の短い小さい人魚が自分にだけ懐いて歌ってくれたらどうする?

と聞いてみた。

人魚なんて居るものか。

その友人は笑った。

けれど、一呼吸おいてから、でも自分にだけってのは、嬉しいかな、そう答えた。


僕は。

そうだな、

と、照れたように笑った。



僕は。

人魚のことをだれにも言わなくて良かった、と

その時、心の底から思った……。



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夢はここで終わった。


果たして「僕」が育てた人魚は本当にいたのかどうか、「僕」の妄想の産物であったと言えなくもないが、夢の中のことなのでわからない。

何故、人魚がかたくなに海に帰ろうとせずコップの中だけにいたのかも、私にはわからない。


ただ、たった14日間とはいえ、「僕」と人魚の間には何か分かり合えるものがあったのだろうと思うと、羨ましさは覚えるのだ。

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【初夢シリーズ】月夜の歌声、浜辺の真珠 茶ヤマ @ukifune

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