第二話 判断は

 こうして、ツルペ=エスト王国。

 パウロエラ三世は、胸をなで下ろした。


 そんな中。

 当然のように周囲三国が、技術を狙い。攻めてこようとしている。


 パウロエラ三世は、使用料を払えば、教えると言っているのにもかかわらずだ。


 どうあっても、周囲三国は、攻めてくる様だ。


 ノコーリア王国に、インターイーツ王国、そして、ラグナー王国。


 彼らの言い分は、とんでもない話。


 奪って解析をすれば、タダだ。

 どうせ、そんなものすぐに創れる。

 創れば、それをこの大陸にある、他の国へ売るのだと。

 お前達は、俺達の幸せのために滅べと。

 理不尽な言い訳。


 他国が苦労をして開発をした技術を奪い。

 それを真似をして、自国の開発だとして売りつける。


 だが、賢者や、大魔法師と名高い、マジカヨ=サキエネオスが数年掛けた術式が、簡単に解析できるとは思えない。


 それに、彼が持っている技術がある。

 彼にしか創れない、特殊な魔導具回路。

 積層型。

 多段回路という技術がある。


 見た目は一枚の金属板だが、幾重にも重ねられている。そのため、その術式は分解。つまり壊さないと解析できない。

 接続には、特殊なクリスタルと、魔石を改造し、濃縮して創った精霊石が必要となる。


 そう、まさに、技術の粋を集めたもの。

 そうでなければ、あの人工太陽は、一瞬で力を解放してしまう。

 その威力は、数百キロの範囲が、一瞬で焼けてしまう。

 そんな、とんでもない威力を持った魔法となってしまう。


 きちんと創れなければ、ただの大量殺戮兵器。


 彼らは、きっと分かっていない。


 だが、彼らは他国に忍び込み。奪った情報から、新型の弓矢や魔法剣で武装している。


 それぞれの国を、軍が出立したという情報が、届く。


「ええい。何とかならんのかぁ」

 普段冷静な王が吠えたのが、二週間前。


 国境の防衛をしているが、一カ所でも破られればまずい。

 いま耐えられているのは、食料に差があるためだろう。


 だが、向こうが使っている兵は、雇った者達や、でっち上げで、他国から派遣して貰った兵達。

 

「ツルペ=エスト王国は人や食料を奪い、我が国を滅ぼそうとしている。助けてくれ」

「こんな時勢に、許せん。手をかそうぞ」


 まあ、そんな国が結構沢山。


 自国の国民が、攫われたり襲われたりしたことがある。

 だがそれは、ノコーリア王国と接しているから。

 そこに思い至らない。

 まあ周辺国も、いまは民が飢え、大変な時ではあるが。



「教皇殿。この危機を脱する手があると?」

「ええ。教会に伝わる書物に。禁忌扱いですが一つ」

 教皇は王の目をじっと見つめ、そう語った。


 時間のない王は、最優先で準備を進め、魔石と奴隷の命。百名分。

 それだけの、犠牲を払い。

 そのすべての力を、異世界から招く勇者へと、供えた命全部乗せの、魔石の魔力をつゆだく状態で注ぎ込む。


 その儀式を経て召喚されたものは、最強の戦士であり、無類の強さを誇る魔道士となる。確かに文書には書かれていた。



 だが、魔方陣の光が収まり、現れたのは一組の男女。

 これだけで、記述と違う。


 困惑する王達。

「おおっ、おっ? 勇者様? えーと、まあこちらへどうぞ。説明をいたします」


 何せ古い文書。無事にどこかから現れた人。

 期待を託し、武術や魔法を教え込む。

 だが、その強さは、伝承ほどではなかった。


 失意の中で、ギリギリ踏ん張っていた、ツルペ=エスト王国は滅亡をすることになる。


 ********


 目を覚ますと、病院だった。

 なんだか、頭が軽い。

「うん? 体も、ものすごく軽…… えっ」

 うつむき、見えた腹は引き締まり、細マッチョ。


 つい、期待してパンツの中を覗く。

 ――つくしが、松茸に進化をしている。

 なんてこったい。


 そうして、喜んでいると、声が掛かる。


「目が覚めたようだね。事件の話を聞きたいんだ」

 そう言って、ベッドの脇に座る。

 警察の制服を着た、おっさん二人。

 

「そうは言っても、よく分からないのですが?」

「ああ。そうだろうけれど、クラスメイトに話を聞いているので、補足があれば言って欲しい」


 そう言って一人が、調書だろうか?

 読み始めた。


「昼休み、同級生の路来樹夢君に、何か言いがかりを付けられていた様だね。これはいつもされていたようだが、相違ないかね?」

「そうですね。最近は事あるごとに」

「何か理由は? 思い当たる物があれば、言って欲しい」

「たぶん。路来は僕の幼馴染み。香。上木香と付き合っていたのだと思います」

「そう」

 そう言うと、何かを書き込んでいく。


「それについて特別な感情。そうだね。彼を恨んでいたとか?」

「いや、それが…… 元々は、香が好きだった。確かにそうでしたが、ある時から何故か、夢から覚めたように気持ちがなくなって」

 書いていた手が止まる。


「では事件があった時には、恨みとか、そんな気持ちはなかったと」

「そうですね」

 そう答えると、二人は顔を見合わせる。


「同級生が言うには、床が光り出した怪現象の時。君が彼を引っ張り込み。意図的に彼を犠牲にしたという事だが?」

 そんなことを言ってくる。


「犠牲もなにも、僕はあれが何か知りませんし、確かに手を引っ張ったのは、光から逃れるためですが、彼が入れ替わるように、中へ入るなんて思っていませんでした。なんて言うんでしょう、溺れそうになった時に、たまたま彼の手を引いた感じですね」

 そう答えると、警察官は困った顔になる。


「あーまあ、そうか。そうだよな。此方でもあの怪現象が何かは分かっていないし、学者さんも不明だと。ただ光って、人が二人消えたと」

「二人ですか?」

 しらっと答える。

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