危機一髪を回避。勇者召喚と呪い。そして幼馴染み。
久遠 れんり
第一話 あっちとこっち
僕には、唯一誇れる存在。
幼馴染みがいる。
おかしな言葉だと思うだろうが、僕の現状はそれが本当だ。
まるで、どこかで聞いた事のある。別の世界で本気になるキャラと同じような状態。
身長は百六十センチ台。体重は平均より百四十パーセント増し。
勉強をすると、偏差では中央値から外れ、ゼロに向かっていくほうが近い。
見事だろ。
これで、高校に受かったんだぜ。
あの中学校三年の時。
そう、人生で一番やる気を出した。
幼馴染みの彼女。
上木香(うわきかおり)。
彼女と同じ、学校へ通うために。
彼女とは、家が隣同士で、窓を開けると彼女の部屋。
子供の頃、彼女が親に頼んで、今の部屋にしてくれたようだ。
彼女は、子供の頃のかわいさをそのままに、すくすくと伸び。
そして、伸びた身長は、中学校の時には、ほぼ僕と同じ高さになった。
年頃になると、彼女はその身長のまま。ボフッと育った。
出るところが出て、くびれるところはくびれて。
歩いているだけで、男は振り返る。
そして何より。
勉強は、平均ちょい上で、運動もまあまあ。
飛び抜けて高嶺の花という感じがなくて、人気があり。友人は多い。
そう、そんな彼女と同じ学校へ通うために、何とか、同じ高校へと進んだんだ。
いま高校二年生だが、運動は体型が表すように、得意ではない。
「うおーい。家法天命(かほうてんめい)お前、転がった方が絶対早いだろう」
先生まで、そんなこと言う始末。
「もう天命ったら、また転んだの? はい、絆創膏でも貼っておきなさい」
香が足を引きずっている俺を見つけて、絆創膏を貼ってくれる。
多少砂が付いて、傷口はジャリジャリだが、彼女の愛。
彼女は、絆創膏を貼ると、満足をした様に、友達と行ってしまう。
「もう香。どうして家法なんか、相手にするのよ」
「うーん。幼馴染みでね。なんとなく」
「さえないし、デブがうつるわよ」
そう言われて、彼女は少し落ち込んだ顔をする。
「小学校の時は、背も高くて、お勉強もできたし。かっこよかったのよ」
周りの子達は、意外そうな顔と、嫌そうな顔に二分された。
嫌そうな顔をした子が、つまらないことを言い始める。
「それって、呪いとか、病気じゃないのぉ」
「ええっ。やめてよ。本当にうつりそうじゃない」
そんな残酷なことを、きゃいきゃいといいながら、廊下を歩いて行く。
それを見ている、男子グループ。
「意外とかわいいな。あれって上木だっけ?」
「ああ。そうだが、普通だろ」
「路来って、好みが変だよな」
「やかましいな」
周りの連れが揶揄い始める。
「うえーい。このみちゃんは。何でも食うから」
「このみじゃない、樹夢だ」
「お前の名前読みにくいし、変わってんなあ」
「そうか? 路来樹夢(じらいこのむ)。まあ普通だろ」
此方もギャアギャアと、言いながら教室へ向かう。
その一連の流れを、目で追う僕。
――そうだ。
小学校の時は、普通だった。
あれは、たしか小学校五年生の時。
スポーツクラブが、その日はあって。教室で……
そうだ、着替えているときに、香がやって来た。
「ねえ。天命ちゃん。私たちって、仲いいよね」
「まあ。家も隣同士だしな」
そう言うと、彼女はニコッと微笑む。
そして、俺に抱きついてきた。
「おい。汗をかいているし、駄目だよ」
そう言って、押しのけようとしたとき、彼女は拙いながら、キスをしてきた。
その時、何かがはじける音がして…… そうだ。
僕は ――気を失ったんだ。
そこから何があったのか、思い出せない。
気がつけば、家のベッドで寝ていた。
そんな事を思いだした、半年後。
教室で椅子に座り、ぼーっと外を眺める。
あの日から、路来は何かあるたびに、香にちょっかいを出している。
それを気にしない振りをしながら、日々を過ごす。
何年生だろうか? 女の子が走っている。
昼休みに元気だな。
僕も、走って見ようか? 最近そんな気力が湧くようになってきた。
「おおっ。家法ちゃん。女子のお尻ウォッチングか。良い趣味じゃないか」
最近妙に絡んでくる、路来。
そうすると、必ず香が止めに来る。
「ちょっと、樹夢。やめなさいよ。天命ってば、ひ弱なんだから」
「分かったよ、香は優しいなあ」
そんな寸劇が繰り広げられているとき、床が光った。
俺の足下。ピンポイントで。
「げっ、異世界」
思わず叫ぶ。
だがこの時、何故か俺の体は、小学校の時のように鋭く俊敏に動いた。
つい、目の前にあった路来の左腕を掴むと躊躇無く引っ張る。
入れ替わりに、俺は魔方陣の範囲から出られた。
だが、その時。
路来の右手に、恋人繋ぎをされたまま、引かれて驚く香と、それを包み込む光。
その驚く香の顔と、重なるように見えた何かの影。
魔方陣が消える瞬間。俺の体に何かが流れ込み、俺は気を失う。
********
「王様。
「分かった、通してくれ」
王様は宰相に伝える。
この世界全体が、蘇った邪神により。
もう何年も、厚い雲におおわれている。
月を重ねるごとに、気温は下がっていく。
そして当然のように発生する飢饉と、争い。
この国、ツルペ=エスト王国は、三方を他の国と接しており、今は漁業となけなしの穀物で、民の飢えをしのいでいた。
賢者が存在して、スライムの粘液から取った透明な薄い皮膜を使い、温室なるものを作り、今まさに農業革命を起こそうとしていた。
ただ、温度は何とかなっても、日の光が不足すれば。作物が育たない。
困っていたが、今度は。
大魔法師と名高い、宮廷魔法師。
マジカヨ=サキエネオスが、魔導具による。
人工太陽なる火球を、創ることに成功をする。
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