かこか、みらいか

サカモト

かこか、みらいか

 年が明けて、一週間後ほど経った日曜日、近所にあったお寺へお参りに行きました、初詣です。

 ひとりで向かいました。大きな門があるお寺で、境内に、同じようにお参りに来た人たちがいます。でも、混んではおらず、まったく待つことなく、お賽銭箱へコインを入れ、参りをいたしました。

 いつもは前に並んでいる方の参拝の動作を忠実に真似し、参拝しているのですが、今回は前に誰もいないため、少々、オリジナルの参拝になってしまったかもしれません。きちんと、参拝すべきなのでしょうが、致し方ありません。

 そして、おみくじコーナーへ向かいました。

 おみくじを引くため、しかるべき場所へコインを投入しました。そこに置かれた六角の箱を手にしようとしたときです、ささやかな段差に、つま先がひっかかり、大きくこけそうになりました。とっさにバランスをとり、なんとかこけずにはすみましたが、あぶないところでした。下手をすれば、ひとりバックドロップです。

 まさか、参拝のオリジナル化の、バチが。

 一瞬、それが脳裏によぎりした。よぎったものの、そのまま通過させておきました。

 過去とらわれない、生き方です。

 それから、六角の箱をふって、ひゅるりと出た棒にかかれた書かれた番号の引き出しを開けました。中から、おみくじを一枚、取り出します。

 吉でした。

 吉か。

 こけかけて、命懸けで引いたおみくじの結果が、吉。

 そうですか。

 それから文面の方へ目を向けます。いろいろ書いてありました。ただ、その中でも、ひときわ気になる一言が書いてありました。

『危機あり』

 と。

 もう一度、見て確認します。

『危機あり』

 危機。

 そういえば、さっき、ここでこけかけました。もしかして、このおみくじに書かれた『危機あり』は、あれのことでしょうか。

 となれば、未来を当てた、おみくじです。

 吉、ですが。

 あれ、でも、危機が起こった後に引いたおみくじで『危機あり』を知りました。では、おみくじで、危機を知る前の起こったあの危機は、もしかして、ここに書かれた危機とは別物なのでしょうか。

 疑問です。

 そして、それからの日々は、たいへんです。

 おみくじに書かれいた危機は、もう済んだ危機なのか、それとも、これから起こる危機なのか、わかりませんので、つねに、気を張って生きることになりました。いったい、どんな危機がやってくるのかわかりません。なにかしら、お金がいっぱいとられるうような危機とか、いやです。

 こうして、気がかり抱えたまま、一年が過ぎました。結果的に、この年、この身には、心身、財産ともに、大きな危機はありませんでした。

 そして、年明けはじめての日曜日、一年前と、同じお寺へお参りに行きました。

 参拝してから、境内の一角を見据えます。

 おみくじコーナーです。

 結局、去年は、おもくじを引いた後、暮らしの中で、危機は一度もありませんでした。つまり、あのおみくじの『危機あり』は、去年のあの時、こけそうになった出来事だった。

 一年をかけて、ようやく答えにたどり着きました。ゴールです。

 これで、今年は心の余裕をもって、おみくじが引けます。

 などと思い、不敵に笑んでしまいつつ、おみくじコーナーへ足を踏み入れたとき、油断しました。小さな段差に、つま先がひっかかり、大きくこけそうになりました。去年とまったく同じ過ちでした。歴史を繰り返しました。そして、同じように、とっさに、態勢を整えたため、なんとかこけずにはすみました、あぶないところでした。下手をすれば、ひとりジャーマンスープレックスです。

 まさに、危機。

 ハッ、まさかこれのことか、去年のおみくじに書いていた『危機あり』は。

「うげ、予言のスパン、ながっ」

 つい、濁音込みでそう言い放ってしまいました。

 その後、くやしいので、おみくじは引きました。

 吉です。

 また、書かれていました。

『危機あり』

 と。

 おや、まあ。

 では、また来年だ。

 

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