第148話 自爆

「あ、兄上……」


 顔面蒼白となるローウェル殿――いや、法で禁じられている精神操作系の魔道具を使って兄を意のままに操っていた極悪人を相手に「殿」なんてつける必要はないか。


 それにしても、金のためなら実の兄さえ利用するなんて……恐らく、ダーレン様もまさかこのような手に打って出るとは予想していなかったようで油断していたようだ。普段の彼の実力ならば、あのような怪しい魔道具の使用をあっさり許したりはしないだろうからな。


 一方、ローウェルは自らの悪事が白日の下に晒されたことで大いに焦っていた。

 おまけに相手は実の兄。

 こうなると、グラバーソン家からの除名処分くらい重い罰が科せられても不思議じゃない。


 実際、ダーレン様は怒り心頭といった様子だし。


「貴様という男は……そこまで性根が腐っていたか!」


 魔力で身体能力を向上させたダーレン様は、受け取ったペンダント型魔道具の核と呼べる宝石の部分を握り潰す。

 あまりの迫力にローウェルは「ひぃっ!」と小さな悲鳴をあげたあと、すがるように自身の考えを述べた。


「あ、兄上、どうか冷静になってください。宝の山であるゴーテル魔鉱山をたかが辺境領主の若造に奪われて構わないのですか?」


 サラッとひどいこと言うな。

 まあ、辺境領主という部分は現段階だと覆せない事実ではある――が、そこを治めるドイル様は素晴らしい領主だ。

 彼をよく知る身としては、ひとつ文句でもつけてやろうかと思ったのだが、それよりも早くダーレン様が猛抗議する。


「若い辺境領主であっても、彼の人間性や領主としての資質はすでに把握済みだ。それを加味したうえで、私もドノルド様も彼に魔鉱山を託すよう国王陛下に伝えたし、サポートをしていく。これはすでに決定事項だと何度説明したら理解できるのだ」

「だからそれが納得いかないんだって言っているんだ! 兄上やドノルド様が本気になって圧をかければトライオン家など簡単にねじ伏せられるだろ! みすみす大金を得るチャンスを潰すなんてどうかしている!」


 ついに怒りをぶちまけるローウェルだが、ここでその行動はもっともやってはいけない悪手だろう。


「なるほど……それがおまえの本心なのだな」

「あっ――い、いや、その……」


 ボロが出たことにようやく気づいたローウェルだが……もう遅い。


 最初から分かりきっていたが、白状してくれたおかげで余計な手間を省けた。

 その点についてだけはよくやったと褒めてやりたいな。

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