第137話 知られざる闇

「その顔つき……興味はあるようだな」

「グラバーソン家とは仕事で一緒になることが多いんだ。気にもなるさ」


 わけあって御令嬢と一緒に生活をしているのだが、それについてはややこしくなりそうなので黙っておく。


「公爵家とも深い間柄っていうんだから騎士団ともかかわりはあるか。……だが、このネタを聞いたらグラバーソン家の見方が変わるかもしれねぇぜ?」

「もったいぶってないで早く言ってくれ」

「そう慌てなさんさ」


 シュナイダーはひと息ついてから、グラバーソン家の闇について語り始めた。


「まず当主のダーレン・グラバーソンだが、こいつはまともだ。娘がふたりいて、妹の方は優秀だが姉の方は魔法使いとしての才能が皆無らしい。それでもいい仕事には就いているそうだがな」

「ふむ」


 どちらも知っているが、ここは知らないふりで通す。

 ……問題は次か。


「もともと優秀な人間の多いグラバーソン家だが、そんな名家にあってひとり異端児とも呼べる恐ろしい野心家がいる」

「野心家?」

「当主の弟であるローウェル・グラバーソンだ」


 当主の弟……つまり、アミーラの叔父か。


「なぜ彼は異端児と呼ばれているんだ?」

「俺も直接会ったわけじゃねぇからあくまでも評判なんだが、どうも兄が当主になったことが気に入らないらしい。まあ、あの手の後継者っていうのは長兄が継ぐっていうのが当たり前ではあるんだが、そんな理由だけでは納得しなかったようだな」

「まさか……グラバーソン家の次期当主を狙っているのか?」


 だとすると、不慮の事故に見せかけて暗殺なんて不穏な考えもよぎる。


 ――だが、俺の言葉に対してシュナイダーは首を横へ振った。


「今のヤツはそんな狭い視野をしちゃいない」

「どういう意味だ?」

「ローウェル・グラバーソンが狙っている首はもっと大物って噂だ。それこそ、現国王陛下とか、な」

「なっ!?」


 おいおい、それはシャレにならないぞ。

 まあ、あくまでも真実だったらって話だが。


「……情報の信憑性は?」

「おいおい、語っておいてなんだが、こんな突拍子もない話を信じるのか? 正直、鼻で笑われると思っていたんだがな」

「おまえはビジネスで嘘はつかないタイプだ。詐欺の手口だってそうだったろ?」

「っ! ……あんた、本当に変わったんだな」


 シュナイダーは一瞬だけ目を見開き、驚いたような表情を浮かべる。

 だが、すぐにいつもの飄々とした態度へ戻り、続きを語り始めた。




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