第138話 グラバーソン家の危機
「ともかくローウェルがよからぬ企みをしているのだけは間違いない――が、こいつを追求していくのは骨が折れる作業だぞ?」
「だろうな」
シュナイダーが言わんとしていることは理解できる。
相手はグラバーソン家。
貴族の家柄でないとはいえ、長年にわたって公爵家に仕えてきた専属の魔法使い一族。現当主の弟に不祥事が持ち上がったのなら、あらゆる手段を用いて隠蔽に動く可能性もある。
実際、王都勤務の時はそういうあくどい貴族たちを何人も見てきた。
だからこそ、トライオン家のドイル様やマクリード家のアリッサ様のように、眩しいくらい誠実で穏やかな人たちは異端のように映る。本来であれば、あのふたりと同じくらい領民想いで思慮深い人が領主となるべきなのだが。
「グラバーソン家の不祥事は連中を囲っているマクリード家にもダメージが及ぶ。もしそうなったら天下の魔法使い一族は尻尾切り。没落が始まるな」
「そ、そんなに簡単に関係を断ち切れるのか?」
いくらなんでもドライすぎるんじゃないか?
確かに評判は落ちるだろうが、やらかした(かもしれない)のはあくまでも当主の弟。
なのに、一族全員を見切るというのは些か強引な気がする。
「それだけマクリード家は完璧主義者なんだよ。だからこそ公爵家としての立場を守り続けられたんだろうがな。……まあ、もっとも、すでに自体を把握して動きだしているのかもしれねぇが」
「っ!?」
シュナイダーの言う通りだ。
マクリード家の当主であるドノルド様とは顔を合わせて話をしたこともあるが……相当なやり手という印象を受けた。
同じ貴族でも辺境領主であるドイル様に対して「閉じこもっていた娘の心身を開放してくれた」と評価し、柔軟な対応力も見せていたな。
あれだけの人がグラバーソン家の不穏な動きに気づかないだろうか?
魔鉱山の件で話し合いがもたれたというのが、その時にはもうローウェルの企みに気づいていたのかもしれない。
「グラバーソン家の次男坊を気にかけるのはいいが、そんなことをしてあんたの立場は大丈夫なのか? ただでさえ左遷をさせられた身だろ? 下手に目立つと二度と王都勤務へは戻れなくなるぞ」
「なんだ、心配してくれるのか? 明日は大雪になりそうだな」
「茶化すなよ。これでもあんたには感謝してるんだぜ?」
「感謝? 捕まえて監獄にぶち込んだ俺に?」
「そうさ。おかげでいろいろと静かに考える時間がもらえた。……おかげで刑期を終えた後の生き方が定まったよ」
そう語るシュナイダーの表情は晴れ晴れとしていた。
……うん。
これなら本当に大丈夫そうだな。
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