第135話 古い知人

 王都から北へ進むこと数日。


 たどり着いたのは凶悪犯罪をやらかした者たちを押し込んでおくサンファル監獄。

 グラバーソン家とつながっているかももしれない商人の正体を探るため、俺はある人物と面会するためここまでやってきた。

 

「ジャスティン・フォイルだ。一年くらい前にここへぶち込まれたシュナイダーという男と話がしたい」

「少々お待ちください」


 分厚い鉄の扉の前にある受付で身分証明を行う。

 聖騎士という地位についていた俺でさえ、そのまま通してもらえない。たとえベローズ副騎士団長だったとしても、それは無理だろうな。


 そこまで徹底した管理のもとで運用されているこの監獄には、百人以上の囚人が収容されている。


 罪状は殺人から始まり、詐欺、強盗、強姦、奴隷売買――などなど、挙げたらキリがないくらい豊富だ。


 そんな凶悪な連中の中で俺が会おうとしているのはシュナイダーという男。

 何を隠そう、俺自身が捕まえてここへ放り込んだ張本人だ。


 あいつからすれば顔を見るのも嫌な相手、情報提供してくれるのか怪しいものだが……例の商人に関して何の手がかりもない以上、不本意ではあるがヤツに協力をしてもらわなくてはならない。


 しばらくすると許可が下り、魔法の力で分厚い鉄の扉がゆっくりと開かれていく。


 それから職員に案内されて面会室へと入った。


 部屋の中央は透明なガラスで仕切られており、ここで囚人と会話が可能。もちろんこのガラスは魔道具のひとつでドラゴンが体当たりをしても壊れない特注品なのだとか。


 そのガラスの前に置かれた椅子に座って待っていると、三人の騎士に連れられたひとりの男が入室。


 ……かれこれ一年近く前になるが、随分と印象が変わったな。

 少しやつれた感じがする。


 まあ、外にいる頃は他人から騙し取った金で贅沢三昧の暮らしをしていたからな。

 体系もスリムになったし、健康にはいいのかもしれない。


「久しぶりだな、シュナイダー」

「まさかあんたが訪ねてくるとはな……地方勤務の聖騎士殿よ」

「なんだ、知っていたのか」

「不思議なもんで、ここにいても情報だけは入ってくるんだ。まっ、他の連中じゃこうはいかないだろうがな」

 

 相変わらずの自信家だな。

 こういう物怖じしない態度が詐欺を成功させた要因らしいが。


「それで何の用だ? 農村の萎びたジジババ相手じゃ話が合わないからお友だちにでもなりに来たのか?」

「いや、あっちでの生活に不満はないよ。村の人たちともコミュニケーションはしっかり取っている」

「…………」


 なんだ?

 なんでそんな驚いているんだ?


 変なことを口走った自覚はないのだが。


「あんた……変わったな?」

「そうか? よく分からんが、変わったというならおまえもだろ」

「けっ! おかげさまで健康的な貧乏暮らしができているよ。まったく、涙が出てくるね」


 悪態をついているが、とりあえず元気そうだ。

 これなら……例の情報を聞き出せるかもしれない。

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