第133話 悪だくみ
「他国の商人、か……」
それ自体は別に悪党でも何でもない。
むしろこの国では手に入らないような香辛料だったり魔鉱石だったりを販売してくれているので助かっているくらいだ。
もちろん、国内の経済が衰退しないよう他国籍の商人については関税などの処置がとられており、今は目立って問題視されている状況ではない。
……だが、気になるな。
グラバーソン家はトライオン家の領地内にある魔鉱山に何やらクレームがあるそうだが、その背後に他国の商人が絡んでいるとなると話は変わってくる。
「アミーラ、その商人と君のお父さんがどんな話をしていたか、覚えていないか?」
「ごめんなさい、そこまでは……」
「ああ、いいんだ。気にしないでくれ」
さすがに子どもを巻き込んでまでそんな話はしないか。
……とはいえ、探りを入れてみる必要はありそうだ。
この件はすぐにでもベローズ副騎士団長の耳に入れておくべきだろう。
「他に何か気づいた点はなかったか? どんな些細なことでもいいんだ」
「えぇっと……そういえば、偶然ふたりが話している場を通りかかったことがあって、その時は貿易の話をしているようでした」
「貿易?」
となると、国絡みの案件になるな。
しかし……屋敷の中で、しかも商人とふたりだけという状況がどうにも気になる。そういう大事な話は外に漏れないよう、城などに相手を招き、尚且つ専門的知識のある人物か外交担当大臣を交えて行うのが普通。
今のアミーラの話を聞く限りでは……まるで悪だくみをしているように聞こえてしまう。
ここで、そのアミーラがジッと俺を見つめているのに気がついた。
「どうかしたのか?」
「いえ、その……王都から帰ってきてから私の家のことを尋ねられているので、何かあったのかなぁと」
いかん。
さすがにいろいろと聞きすぎたか。
だが、おかげで有力な情報を手に入れることができた。
しかし、それでアミーラを不安がらせてしまってはいけない。俺は少しでも彼女が安心できるよう、優しく頭を撫でる。
「大丈夫だ、アミーラ。君が心配するようなことは何もないよ」
「ほ、本当ですか……?」
「もちろんだ。あと、まだ帰ってから手を洗ってきてないだろ?」
「そうでした!」
パタパタと小走りに洗面所へと向かうアミーラ。
すると、背後からエリナの声が。
「子どもの扱いが上手になりましたね」
「これでいつでも父親になれるな」
「……今のはプロポーズと受け取ってよろしいですね?」
「バカ言ってないでそろそろ夕食の支度をするぞ」
「ちぇ~」
このやりとりにもだいぶ慣れたな。
とにかくこの件はまずドイル様へ報告するとしようか。
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