第123話 これからの方針

 その日の夜。

 アミーラの熱烈なお願いもあり、リリアンさんは彼女の部屋で一緒に寝ることとなった。


 今日は深夜見回りの日なので、駐在所に明かりをつけて時間が来るまで書類のチェック中。


 王都勤務の頃は昼夜問わずいろんな事件が舞い込んだものだが、カーティス村へ来てからというもののそういった緊急事態とは無縁の日々を送っている。おかげでしっかりと睡眠をとれる日が増え、健康状態はよくなっているな。


 仕事を続けていると、エリナがやってくる。

 明日の早朝から入れ違いでの勤務になるため、今日は早く寝ると言っていたのだが……どうやら、リリアンさんのことが気になるようだ。


「眠れないのか?」

「先輩は……気にならないんですか?」

「リリアンさんの件か?」

「はい」

 

 エリナは貴族ではないが、家柄はしっかりしている。だから結婚相手となるといろいろとしがらみが出てくるので、リリアンさんの件が他人事に思えないのだろう。さっき彼女に対して語気が強くなったのもそのせいか。


 ただ、エリナの父親であるベローズ副騎士団長は理解のある人だ。

 

 娘が本気で嫌がれば、結婚も考え直すだろう。

 ハンクの件がいい例だ。

 ヤツも家柄だけはよかったから、エリナに対して好意があると察知すればいろいろとアピールをするはず。


 だが、エリナはハンクを嫌っていた。

 ゆえに、ベローズ副騎士団長も強くは推さなかったのだ。


 まあ、立場が貴族になれば話も変わってくるのだろうが、それでも嫌がる娘を強制的に結婚させるようなマネはしそうにない。


 ただ、どうもグラバーソン家はそうでもないようだ。

 どちらかというとこっちの方がよく聞く話ではあるのだが、平民である俺からすれば同情するしかない。中にはそれまで一度も会ったことがない人といきなり結婚させられる例もあるという。


 しかし、何の関係もないただの騎士である俺にはどうしようもないんだよな。


「……とりあえず、この件は明日にもドイル様へ伝える」

「分かりました。――って、それだと先輩が休んでいる暇ないんじゃ?」

「帰ってからゆっくり寝かせてもらうさ」


 王都勤務時代は三日三晩寝ずに森の中で戦い続けたこともある。

 一日くらいどうってことはない。


 それに、俺としても彼女をどうにか救ってやりたいって気持ちがあった。

 いい人そうだしな。


 とにかく、まずはドイル様へ話を持っていく。

 すべてはそれからだ。

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