第122話 迷い

 結婚に迷い、か。

 アミーラの前だから言及は避けるけど、やはり政略結婚の類だろうか。


 詳しい状況を知るためにいろいろと聞き出したいところなのだが……気になるのはやはり妹であるアミーラの存在だ。


「お姉さま……ウェズリーさんとの結婚をやめちゃうんですか?」


 姉妹であるがゆえの無邪気な質問。

 だが、言っている内容は俺がまさに聞き出したかったことなんだよな。

 この辺の勘は本当に鋭いよ、アミーラは。


 さて、妹からの真っ直ぐすぎる質問を受けたリリアンさんだが、その顔つきは暗かった。


「……正直、どう答えていいか分からないというのが本音なの。相手の方にも失礼だし、すぐにでも何かしらの答えを出さなくちゃって思うんだけど――」

「そんなことはありませんよ!」


 リリアンさんの意見を真っ向から否定したのはエリナだった。


「そんなあっさり結婚を決めちゃダメですよ! 絶対に譲れない部分があるならそこは押し切らないと! ねぇ、先輩!」

「えっ? あ、ああ……」


 いきなり同意を求められたから思わず首を縦に振ってしまった。

 ……まあ、上流階級特有の歪んだ事情ってヤツが絡んでいないという前提があれば、俺もそう焦らなくてもいいんじゃないかってアドバイスを送りたくなる。


 しかし、彼女の様子を見る限り、まず間違いなく「上流階級特有の歪んだ事情」が絡んでいるのだろう。


 ――って、待てよ。


「さっきアミーラがウェズリーと言っていたけど……もしかして婚約者というのは騎士団にいるウェズリー・ジェンキンスですか?」

「は、はい。そうです」

「先輩のお知り合いですか?」

「騎士としては一年後輩なんだ」


 まさかリリアンさんの婚約者がウェズリーだったとは。

 騎士団の仕事ではあまり一緒になった経験はないが……確か、ゲイリーが長らく同じ部隊に所属していたな。


 近いうちに話を聞きに行ってみるか。

 王都にはちょっと用事もあったし。



 その後、落ち着きを取り戻したリリアンさんだが、今日は遅くなってしまったため駐在所で一夜を過ごすこととなった。


 アミーラが使い魔を送り、グラバーソン家には事情を伝えてあるが……これはいろいろと揉めそうな案件だな。


 例の鉱山町に関する動きも近々出てくるらしいし、ここで公爵家ともつながりの深いグラバーソン家と険悪になるのだけは避けたい。


 さて、どうなることやら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る