受賞記念SS いつでも緩いカーティス村駐在所
俺がカーティス村へとやってきて、どれほど経ったか。
エリナやアミーラと過ごす日々が当たり前となり、出世を目指してバリバリやっていたあの頃が遠い過去のように思えてくる。
実際は一年も経過していないというのに……もう何年もカーティス村にいる気がするよ。
「思い返せばいろんなことがあったな……」
まだ飛ばされてきて日も浅いが、なんだかここでの出来事はみんな濃いんだよなぁ。
おかげで退屈はしないけどさ。
「せんぱーい! ご近所のファリーナさんがおいしいジャムを作ったからとお裾分けをいただいて――って、どうしたんですか?」
「何か悩み事ですか?」
これまでの出来事を振り返っていると、ちょうどエリナとアミーラが戻ってきた。
「いや、短期間だけどこの村へ来ていろんなことがあったなぁと思ってね」
「随分と気が早いですねぇ。まだ一年も経っていないっていうのに」
「でも、いろんなことがあったからそんな気持ちになるのも分かります!」
「アミーラもそう思うか」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私だって先輩を追ってこの村に移り住むようになってからいろんな思い出がありますよ!」
なぜか対抗意識を燃やすエリナ。
そういえば、カーティス村での勤務を始めてから最初に訪れた変化は彼女の訪問だったな。
ただ、あれは辺境の地での生活に俺が慣れないだろうからと助っ人として彼女の父親であるベローズ副騎士団長が寄越してくれたわけだが……それが今や俺と同じくらいここでの生活が気に入って王都へ戻ろうとしていない。
ハンクの件はケリがついたし、俺もすっかりこの村での生活が慣れたから――とはなかなかいえないよなぁ。
まあ、なんだかんだ言って彼女がいてくれた方が明るいし楽しいのでその点は今さらとやかく言う必要もないかな。
「っ! 先輩! 大変です! これは由々しき事態ですよ!」
「ど、どうしたんだ?」
急にめちゃくちゃ真剣な顔つきで迫ってくるエリナ。
何か重大な事件でも発生したのか――と、思いきや、
「ジャムをもらってきましたけど、肝心のパンがありません!」
割とどうでもいいことだった。
「……なら、やるか。小麦粉はあるんだし。この前来た魔剣使いの商人とやらから買った魔力でパンを作れるって魔道具も試してみたいところだし」
「了解です!」
「じゃあ、午後の任務はパン作りですね!」
「それ名案すぎるよ、アミーラちゃん!」
「えへへ~」
……本当にこのままでいいのかなと思いつつ、こんなのんびりした空気を気に入っている自分がいる。
今まで働きすぎたんだって思うことにして、今はこの村での生活を骨の髄まで楽しむとしますか。
※この後19:00からコンテスト受賞記念SS公開予定!
書籍化作業、頑張ります!
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