第119話 逃げてきた女
アミーラのお姉さんに関する話を聞いた翌日。
俺は駐在所で飼っている赤毛の犬・リンデルを連れて村外れにある湖を訪れた。
ここには気兼ねなく話せる友人がいるのだ。
「よぉ、アスレティカ」
湖へ向かって声をかけると、やがてブクブクと水面が泡立ち、そこから大きなドラゴンが姿を現す。
「随分と久しぶりじゃないか、ジャスティン」
「いろいろあってな。なかなか落ち着かない日が続いていたんだよ」
「そのようだな。リンデルもどこか寂しそうな顔をしている」
「えっ? そ、そうなのか?」
そういえば、リンデルとこうして遊ぶのも久しぶりだな。
最近のお世話係はもっぱらアミーラだったし。
「思えば、おまえが俺にとってここでの最初の相棒だったな」
こっちではエリカよりも付き合いが長いんだよな。
牧場主が森で保護したって話だったけど、あの時は魔狼の件もあったし下手をしたら殺されていたかもしれなかった。それを受け入れるなんて、本当にこの村の住人というのは懐がデカいというかなんというか……まあ、だからこそ王都育ちの俺でも馴染めたんだけど。
それからもアスレティカと一緒に世間話を楽しんでいた――と、急に彼の顔つきが変わり、さらにリンデルまでも唸りだした。
「どうかしたのか?」
「侵入者……いや、敵意はないから来客と呼ぶべきか」
「何っ?」
この場へ近づいてくる者がいると警告したアスレティカは静かに湖の中へと退散。村人以外に見つかって騒がれるといろいろ面倒だし、領主であるドイル様にも迷惑がかかってしまうからな。
その辺は理解力のあるドラゴンで助かっている。
さて、気を取り直して俺はここへ近づいてくるという謎の存在をリンデルと一緒に迎え入れる。
現れたのは若い女性だった。
よほど遠くから歩いてきたのか、疲弊しきって目は虚ろ。顔色も悪く、髪もボサボサ。これではせっかくの美人が台無しだ。
だが、着ている服は素人目にも高価だと分かる。
もしかしたらどこかの貴族令嬢が馬車で移動中に野盗かモンスターにでも襲われ、逃げ延びてきたのか。
「大丈夫か!?」
真相を確かめるべく、俺は慌てて彼女に駆け寄る。
だが、その足はすぐに足が止まった。
彼女の顔つきはアミーラそっくりで、あの子がそのまま十歳くらい年を取ったらきっとこんな風に成長するのだろうなと感じさせるほど特徴が一致していたのだ。
「き、君は……」
アミーラによく似た若い女性。
ひょっとして、昨日話していた彼女のお姉さんか?
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