第118話 アミーラの家族

 しかしまあ、あのパーカーに春が――来たとは言い切れないか。

 肝心のアミーラはあまりその手の話に関心がなさそうだ。


 今も近所の奥様が焼いたクッキーを夕食後にデザートして食べながら、エリナとのおしゃべりに夢中となっている。


 望み薄と斬り捨てるには早計かもしれないが、あの調子だと彼の気持ちに気づくのはかなり先の話となりそうだ。

 そんなことを考えながらコーヒーに口をつけたその時、


「そういえば今度結婚するんですよ~!」

「ぶふっ!?」


 突然放り込まれたとんでもない発言に、思わずコーヒーを噴きだした。

 

「えっ!? け、結婚!? アミーラが!?」

「何を言っているんですか、先輩。彼女のお姉さんがですよ」

「ふふふ、私の年齢だとまだ結婚できませんよ、ジャスティンさん」

「あっ、そ、そうだよな」


 何を動揺しているんだ、俺は。

 変な方向に思考が寄っていたな……猛省しなくては。


 ――って、ちょっと待てよ。


「アミーラってお姉さんがいたのか」

「はい。今は外交大臣秘書として働いているんです」

「大臣秘書なんて超エリートじゃないですか!」


 エリナは興奮気味に語り、アミーラはそれを見て笑っている――が、些かその笑顔はいつもより暗く映った。


 無理もない。

 彼女の実家であるグラバーソン家といえば魔法使いの名家だ。


 実際、アミーラはあの若さでそこらの魔法使いではたどり着けない領域に片足を突っ込んでいる。年相応の無邪気さを持ちながら末恐ろしい存在だ。


 そんな彼女の姉となれば、俺たちの所属している王国騎士団にもその噂が流れてきてもいいと思うのだが……というか、かなり年の差があるよな。アミーラとは少なくとも十歳以上年齢が離れていることになる。


 この辺も何かお家事情っていうのがあるのかもな。


 ――が、それをあの子から聞き出すのは酷だろう。

 今も平静を装ってはいるが、無理をしているのは明白だ。

 エリナは気づいていないようなのでそれとなくフォローを入れておこう。

 

 ともかく、以上のことから考えられるのは……アミーラのお姉さんは魔法使いとしての才能がなかったということだ。


 そうなればだいぶ肩身の狭い思いをされているだろうな。

 結婚というのも、もしかしたら政略結婚だったりして。


 アミーラはいい子だが、名家っていうのはそういうの平気でやりがちだからな。

 まあ、とりあえずパーカーが悲しむようなオチにならなくてよかったよ。

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