第116話 小さな相談者

 グラッセラで起きた事件以降は特に目立った混乱もなく、再び平穏な時が流れていた。


 ――いや、ちょっと違うな。


 平穏といえばそうなんだが……あれからやたらと俺のもとを訪ねてくる者が増えた。

 今日も早朝の畑仕事を終えて駐在所へ戻ってくるとどこぞの国の商人とやらが待ち構えていて、俺に武器を買わないかと商談を持ちかけてきた。


 まあ、その武器の出来はかなりよかった。

 とはいえ、俺には聖騎士として国から正式に与えられた聖剣がある。

 こいつ以外を持ち歩くといろいろ面倒なことになるんだよなぁ。


 それを伝えると、まだ若い商人は大人しく立ち去っていった。

 まだ十代そこそこって感じなのに引き際をきちんと見極められるとは……正確にはまだ学生とらしいが、まるで人生二回目かってくらい冷静な対応で驚いた。あと、可愛い女の子をたくさん侍らせていてちょっとカチンときたな。


「ギャラード商会か……名前だけでも覚えておくか」

「先輩がそう言うのって珍しいですね」

「そうかな?」

「前に『物とかにこだわらないタイプだからどこで買ってもおんなじだ』って言ってましたよ?」

「確かにそう考えていた時期もあったが……あのメイド――じゃない。鍛冶職人はいい仕事をするよ。君は買ったんだろう?」

「はい! ひと目で気に入っちゃいました!」


 エリナはあの少年商人が連れていた女の子たちと意気投合していたからなぁ。

 

「可愛い子たちだったな」

「む? 先輩もあんなに大勢の女性に囲まれたいですか?」

「いや、俺はそうでもないかなぁ。恋人や奥さんならひとりで十分だよ」

「ですよね!」


 一度にたくさんの女性を相手にできるほどの甲斐性はないし。

 ただ、エリナとしては満点の回答だったらしく、めちゃくちゃ御機嫌になっていた。


 やれやれとため息をついた直後、再び駐在所を訪れる人物が。

 しかし、今度はよく見知った子どもだった。


「うん? パーカーか?」


 将来は騎士団へ入ることを目標にしている村の少年パーカー。

 彼の他にも希望者には剣術の指導をしているが……今日は午後からの予定のはず。

 時間を間違えたのかと思ったが、パーカーの何やら思い詰めた表情を目の当たりにしてそうでないと悟る。

 いつも明るい彼らしくない雰囲気だな。


「何か相談でもあるのか? 話なら聞くぞ?」


 俺は話しながらエリナへと目配せをする。

 これは長くなるかもしれないと思い、果実ジュースでも出してやってくれという合図だ。


 一方、パーカーは俺と向かい合う形で椅子に座る。

 すると、開口一番とんでもない発言が飛びだした。


「ジャスティン師匠……俺、恋をしました」

「えっ? こ、恋?」


 それはとてもよいことだと思うが……まさかその相手って――


「俺……アミーラのことが好きなんです!」


 ハッキリとそう言い切ったパーカー。

 ……少年よ。

 それはかなり厳しい茨の道となるぞ?

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