第113話 異常事態

 駐在所の中へと通された俺は早速グラッセラで起きた事件をきっかけに発生するかもしれない危険性について話をした。


「なるほどなぁ。君が指摘した通り、仕組まれている疑いもあるな」

「とはいえ、あくまでも俺の憶測の範囲で……確証はないんです」

「うーむ……けど確かに怪しいよなぁ」


 深呼吸を挟んでから、ロード先輩は頭をボリボリとかく。

 この辺の癖は変わっていないな。


「対策を講じるまでもないとは思いますが、念のため頭の片隅にでもとどめておいてもらえればと思いまして」

「そのためにわざわざこんな遠いところまで。悪かったな」

「いえ。こうして先輩と久しぶりに顔を合わせられてよかったです」

「俺もだよ。誇らしい後輩がこうして――うん?」


 話の途中で、ロード先輩は窓の外を気にした。

 ……さすがだな。

 あのわずかな気配の変化を感じ取れるなんて。

 やっぱり、先輩は並みの騎士とは違う。

 もうちょっと出世欲があれば、今頃は分団長クラスになれただろうに。


 ――っと、それどころじゃなかった。


「先輩……こちらに近づいてくる妙な気配を感じます」

「だな。数は十くらいか。なかなかの手練れだぞ」

「加勢します」

「助かるよ。カルロスとウィングのふたりには後方支援を頼むとしよう」

「賛成です」


 カルロスとウィングというのは、鍛錬をしていた若い騎士だろう。

 鍛錬を見る限り、ふたりともかなり高いセンスを感じる――が、まだまだ粗さもあり、こちらに迫ってくる者たちとの戦いには対応しきれないだろうというのがロード先輩の判断であった。


 これに関しては俺も全面的に同意する。


 先輩ひとりだとさすがにてこずりそうだが、俺が加われば対応は可能だろう。


 外で鍛錬を積んでいるふたりを駐在所の方へと退避させ、俺と先輩は戦闘準備を整える。

 しばらくすると、荒野の向こうに人影が見えた。


 周りに遮蔽物がない分、敵の姿は早い段階から確認できて助かるよ。


「先輩の言うように、数は十ですね」

「本当だな。割と適当に言ったんだが……まさか当たるとは」


 謙遜していっているが、あれは間違いなく確信を持っていたな。


 さて、近づいてくる連中はそれぞれ馬に乗っており、どう見ても道を訪ねに来た旅人って風体じゃないな。

 全員、おっかない得物を手にしているし。


 果たして、あいつらの目的は何なんだ?

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