第107話 聖騎士として

 しばらく来ない間に、グラッセラの冒険者ギルドはチンピラどものたまり場となっていた。

 こうならないよう自警団が目を光らせているはずなのだが……こいつらのうちの誰かは詳しい事情を知っているだろう。


「どうした、急に黙り込んで。今さらビビっちまったのか?」

「あっ、すまない。ちょっと考えごとをしていた」

「か、考えごとだと? ……なるほど。命乞いするためのセリフを練っていたわけか」

「命乞い? なぜそんなことをする必要がある?」

「じき分かる――さ!」


 会話の途中にもかかわらず、男は持っていた大剣を俺目がけて振り下ろす。


 しかし――あまりにも動作が大きい。


 ありったけの力を込め、脳天から俺を真っ二つにしようって魂胆なのだろうが、そもそも当たらなければ意味はない。

 ササッと横に回避すると、ガラ空きになっている脇腹へパンチを叩き込んだ。


「ぶふぉっ!?」


 でかい図体をしていながら、男は軽々と吹っ飛んだ。

 筋肉不足か?

 まだまだ鍛錬が足りないな。

 これならまだ鍛えているエリナの方が重量的に――いや、これ以上はよそう。


「て、てめぇ!」

「なめたマネしやがって!」


 次々と立ち上がって凄むチンピラたち。

 だが、「なめたマネ」という感情はむしろこちらの方が強い。


「……なめたマネと言ったな?」

「それがどうした!」

「そのセリフはそっくりそのままおまえたちに返す。国にとって重要な経済拠点のひとつであるグラッセラの評判をガタ落ちにさせる愚行の数々……聖騎士の称号を持つ者としては到底看過できないな」

「「「「「せ、聖騎士!?」」」」」


 途端に、ギルド内がシーンと静まり返る。

 さすがに連中でも一般騎士と聖騎士の違いくらいは分かるようだな。


「ハ、ハッタリだ! 大体、おまえが本当に聖騎士というならなぜこの場にいる! 聖騎士は国家の最高戦力だ! たかが経済都市のひとつを守るために派遣されてくるような存在ではない!」

「いや、今の俺の勤務先がこの先にあるカーティス村の駐在所だから」

「バカか! 聖騎士が駐在所勤務なんてあり得ねぇだろ!」


 それに関しては同意する。

 実際、俺以外に聖騎士の称号を持つヤツはみんな王都勤務だし。


 ただ、どこが勤務地かなんてそれほど重要な問題じゃない。


「どこで働こうが、この国を守り、人々が安全に暮らせるようにするという使命を抱いている点に変わりはない。そして、今俺の目の前にいるのはその安全を脅かす存在だ」


「ひっ!?」


 三十人近くいる冒険者(チンピラ)たちは一斉に一歩後退。

 ……今さら気づいたところでもう遅いぞ。

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