第104話 異常事態
グラッセラで起きているというもめ事、か。
……正直、気乗りはしなかった。
そもそも俺はカーティス村の駐在騎士であり、グラッセラにはグラッセラの自警団が存在している。うちからも騎士が派遣されているはずだし、その彼らを差し置いて俺が出張るのはちょっと難しいだろうな。
騎士には騎士で縄張り意識が強いところもある。
前はレスケルがぞんざいに扱われ、村にとっても大きなマイナスとなり得る事態だったので参入したが、それ以外に理由がなければ避けたい案件ではあった。
「グラッセラには自警団がいただろう? 彼らには相談したのか?」
「……その自警団がトラブルの元凶なのです」
「何っ?」
そいつは聞き捨てならないな。
コーヒーの入ったカップを俺たちの前に置いたエリナの手も止まる。
彼女の父親は騎士団の副騎士団長を務めている。
上層部の人間にしては珍しいくらい欲がなく、純粋な正義に生きているような人だ。それが町の人々の安心した暮らしを脅かすような事態を招いているなんて伝わったらどうなるか……ああ,嫌だ。想像したくないな。
これはもう少し詳しく話を聞く必要がありそうだ。
「自警団がトラブルの元ということらしいが……彼らは一体何をやらかしたんだ?」
「それがその……いないんです」
「は?」
サッパリ意味が分からなくて思わず素で聞き返してしまった。
「……すまない。もうちょっと詳しく説明してくれるか?」
「自警団の詰所がもぬけの殻になっていたんです。おかげで犯罪行為を取り締まる者がいなくなってしまい、もうとんでもない事態に」
「それはなんと……」
詰所がもぬけの殻?
そんなことあり得るのか?
第一、それこそ副騎士団長の耳に届けた方がいいだろう。
「……エリナ」
「はい」
「ピータを呼びだせるか?」
「すぐにこちらへ向かってこられるかどうかはハッキリしませんが、急がせます」
「うん。来たら今のことを説明し、ベローズ騎士団長へと伝えてくれ。あと、至急応援をよこすようにも」
「分かりました。先輩はどうするんです?」
「先行してグラッセラへと向かう。さすがに無秩序状態となっているなら放ってはおけない」
何がどうなって自警団の人間がいなくなってしまったのか……事情は何ひとつとして飲み込めないが、とりあえず行ってみるしかないか。
応援が到着するまで、なんとか耐えるとしよう。
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