第73話 凄腕の魔法使い
いよいよ公爵家がお抱えにするほどの凄腕魔法使いがやってくる――とはいえ、俺たちは普段通りに過ごしていた。
「リンデル! お手!」
「わふっ!」
「よしよーし! ふふふ、あなたは可愛いだけじゃなくて賢いのね!」
あまりにも平和すぎるのでエリナがリンデルと戯れ始めた。でもまあ、そうなってしまうのも無理はないってくらい今日もカーティス村は穏やかなんだよなぁ。俺も思わず畑で順調に成長している野菜たちのコンディションチェックをしてしまうほどだ。
例の魔法使いはまずトライオン家の屋敷を訪ねるらしい。
今回に関しては俺たちの出番はなさそうに思えるのだが……本職は村の駐在だからな。ドイル様からの要請があれば同行するつもりでいるけど。
そんなことを考えていると、
「師匠! 稽古をつけてください!」
やってきたのは村に住む少年のパーカーだった。
「パーカーか。今日も元気だな」
「はい! 騎士を目指す者として元気だけはなくしてはいけないと思っております!」
美しい敬礼を見せてくれたパーカーだが……最近ちょっと様子がおかしい。
ちょっと前までは年相応にやんちゃな少年という印象だったが、近頃の俺に対する態度はまるで部隊長に指示を仰ぐ新米騎士という感じだ。
実は先日、彼の父親にそれとなく理由を尋ねてみたのだが、どうも商業都市グラッセラでの一件が衝撃だったらしい。
それまでも魔狼の件で実力は把握していたはずなのだが、どこかまだ信じ切れていなかったようで、グラッセラでの一件ではレスケルたちが現場を目撃していたということもあって強さに対する信憑性が増したという。
ただ、レスケルたちはかなり大袈裟に俺の強さをアピールしたみたいで、なんだかちょっと心配になってくる入れ込みようだった。
「それでは早速修行を――あれ?」
熱意たっぷりに迫ろうとしていたパーカーだが、何かに気づいて動きが止まる。
「どうかしたのか?」
「い、いえ、あそこに女の子が……」
「女の子?」
パーカーの指さす方向へ視線を移すと、確かにそこには十歳前後の幼い女の子が。手にはメモのような物を持っており、何かを探しているみたいで顔が忙しなくあっちこっちに動いている。少なくとも、村の子どもではないようだ。
「近くに親っぽい人はいないみたいですね。ひとりで旅をしてきたとか?」
「まさか、あの年でそれは無理だろう」
状況的にはそうとしてか言えないのだが……とにかく、この村にいる以上放っておくわけにもいかない。
年齢の近いパーカーがいれば安心するかもしれないと思い、彼を連れて女の子のもとへと急いだ。
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