第72話 朝のひと時

 魔鉱山を調査するため、マクリード家お抱えの凄腕魔法使いがカーティス村へとやってくる当日を迎えた――が、俺たちのやるべきことは変わらない。


「レオン、バルク、朝ご飯の時間だ」

「「ヒヒーン!」」

「わんわん!」

「慌てるなよ、リンデル。ちゃんとおまえにもあげるから」


 早朝の農作業が終わると、飼育している動物たちの世話が始まる。騎士団にいた頃、遠征先では馬の面倒を自分でみなければいけないため、ひと通りの手順は把握しているが、普段からこうしてエサやりをしたり、体を洗ったりすることはなかったな。


 いつか王都へ戻る時が来たら、その時は厩舎にいる馬の世話をしてくれている裏方の人たちにも感謝をしなくては。自分で毎日やってみて分かったけど、大変だもんなぁ。


 さて、あとは畑を見回ってから本日の朝食当番であるエリナの支援に回るか。

 そう思って行動を始めようとしたら、


「おはようございます、ジャスティン様」

「うん? ピータか」


 ベローズ副騎士団長の使い魔であるピータがやってきた。

 王国議会は終わり、正式にハンクの処分が決定した今では彼がここに来る意味もほとんどないと思うのだが……何かあったのか?


「王都でまたトラブルでもあったか?」

「いえ、ここが気に入ったのでちょっと遊びに」

「……サボりか?」

「じょ、冗談ですよ!」


 どうだかなぁ。

 まあ、俺としてはどちらでもいいんだけど。


「もう少しで朝食ができる。食っていくか?」

「ありがたい! ――って、そうだ。大事な報告が一件あるのを忘れていました」

「おいおい……」


 やっぱり用件があったんじゃないか。

 優秀そうに見えて使い魔としてはちょっとポンコツだよなぁ、ピータは。


「それで、大事な報告というのは?」

「ハンク様の抜けた聖騎士の座をかけて闘技会が開かれるそうです」

「っ! そうだったな……」


 聖騎士は決まった数がいるわけじゃない。

 ただ、今回は不測の事態だったからな……騎士団としてもまさか聖騎士の称号を与えた者が仲間を陥れるようなマネするなんて想定していなかっただろう。議会が終わった後も前代未聞の大事件って大騒ぎだったらしいからな。


「今回の闘技会にはゲイリー様やミラッカ様も参加されるようです」

「あのふたりが……これは厳しい戦いになりそうだな」


 俺が闘技会に出た時は、ふたりともまだ参加資格がなかったからな。

 悔いのない結果となるよう、ここから祈らせてもらおう。


「先輩! 朝ご飯ができましたよ!」

「分かった。すぐ行くよ」


 エリナに呼ばれて、俺は駐在所へと戻る。

 さて、これからいよいよ例の魔法使いがやってくるわけだが……どんな人なのか緊張してきたな。

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