第70話 村人たちへの報告
ピータが報告をしに来た日の夕方には、王国議会での件が村中に知れ渡っていた。
どうも駐在所での会話をガナン村長が外でこっそり聞いていたみたいだ。
収穫した野菜をお裾分けに来た際、ドアの前で偶然聞いてしまったらしく、それが情報源だった。しかも、俺がこの村へ残ると決めた部分を聞かずに行ったようで、どうも俺が王都へ戻るつもりでいると話に尾ひれがついていた。
とはいえ、ほとんどの村人が俺に横領疑惑がかけられていたという事実を知らなかったわけだからな。
無実と証明されても、疑惑を持たれた段階でよく思わないという人もいるだろうし、「厄介者がいなくなる」と清々しているかもしれない。
さまざまな心境が交差する中、真実を求める人手駐在所の前は大混雑していた。
……これは説明をしなくちゃいけない流れだな。
緊張感が漂う中、俺は駐在所を出てみんなの前に立つ。
「ジャ、ジャスティン殿……」
村人たちを代表するかのように、ガナン村長が一歩前に出る。
「申し訳ありませんが、さっきの話を聞いてしまいまして……あなたが王都へ戻られると」
「いえ、俺はこの村に残りますよ」
「へっ?」
こちらの返事があまりのも予想外だったらしく、集まったすべての村人がポカンと口を開けて俺を見つめている。
「お、王都には戻らないと?」
「はい。この村での生活は気に入っていますし、特別戻らなくてはいけないという理由もありませんので」
「し、しかし、あなたは騎士の中でも特に優秀とされる聖騎士……辺境の地での勤務が長引けば、それだけ出世が遅れてしまうのでは?」
「出世よりも大切なものがここにはありますから」
言い終えると、村人たちから歓声があがった。
みんな、俺やエリナがいなくなると思っていたらしく、ずっと不安だったらしい。
「凄く喜んでくれていますね」
「盛り上がりすぎな気もするけどな」
「それくらい嬉しいってことじゃないですか」
なるほど。
そういう考えはなかったな。
ここで日々を過ごしているうちに、なぜ騎士として戦うのか――その理由が明確なものとなっていた。今までは地位にばかり目がいっていたが、騎士としてあるべき姿は、守りたい人たちのために剣を振るうということだろう。
村人たちの笑顔を見ているうちに改めてそれを実感したよ。
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