第69話 少しだけ変わったこと

 王国議会が行われた次の日。

 ベローズ副騎士団長の使い魔であるピータが結果を報告しに来てくれた。


「ジャスティン様の無実が証明されました。検討されていた聖騎士の称号剥奪については取り消しとなり、あなたが希望すればすぐにでも王都勤務へ戻れますよ」

「そ、そうか」

 

 興奮気味に語るピータの勢いに押されつつ、俺は結果を振り返る。

 まず、無実が証明されたという点――これが何より嬉しかった。

 左遷を伝えられた際、ソラード騎士団長から左遷を伝えられた時は問答無用という雰囲気があって、絶対に覆られないと思っていたのだが……ミラッカが言っていたように、ベローズ副騎士団長や仲間たちが頑張ってくれたのだろう。ピータの話ではゲイリーたちの異動話も立ち消えたらしく、後日改めて報告をしに来てくれるという。


「よかったですね、先輩」

「ああ……エリナもありがとう。君がいてくれて本当によかったよ」

「わ、私は何もしていませんよ?」


 謙遜するエリナだが、彼女が支えてくれたのは事実だ。

 おかげで毎日明るく楽しかったしな。


「しかし、ハンク・デラントという男は騎士の風上にも置けない人物ですね。議会が終わってから告発者が続々と騎士団を訪れてちょっとしたパニックになりましたよ」

「今回の件でデラント家は没落していくでしょうね……」


 エリナの言う通り。

 偽りの情報で騎士団を混乱させたヤツの罪は重い。

 今後、デラント家の名をランドバル国内で耳にする機会はないだろうな。


「今は余罪を追及しているそうですが、かなりの数になりそうです」

「剣の実力はあったのだから、きちんと鍛錬を積んでいけばそのうち実力で聖騎士の名を手に入れることもできただろうに……もったいないな」

「精神的な部分がまったくなっていなかったから無理だと思いますけどね」


 手厳しいなぁ、エリナは。

 まあ、彼女もヤツのつきまといには苦労していたようだし、なんとか公爵家に取り入ろうとアリッサ様にも手を出そうとしていたくらいだったから無理もないか。


「それで、ジャスティン様はどうします?」

「うん? 何が?」

「いや、王都へ戻るかどうかですよ」

「あっ」


 そうだった。

 手続きの関係もあるから、この判断は早めにしてもらいたいはず。

 ……答えは決まっているんだけどね。


「俺はこの村に残るよ」

「分かりました。それでは王都へ向かうための馬車を手配して――って、えぇっ!?」


 どうやらピータは俺が王都へ戻ると思っていたらしく、めちゃくちゃ驚いていた。


「も、戻らないのですか? 聖騎士のあなたがこの辺境領地で駐在勤めを続けると?」

「許されるのならそうしたいんだけどね」


 数人しか存在しない聖騎士は国にとって重要な戦力だ。

 上がそれを許さないというのであれば戻るしかないけど……俺はまだここでやり残したことがたくさんあるとピータに伝えた。


「や、やり残したって……そもそもやることってあるんですか?」

「そういう質問は野暮というとものよ、ピータ」


 俺に代わってエリナがそう答える。


「し、しかし……」

「お父様には今のように伝えておいてね。あっ、それと、私もしばらくこっちにいるってことも追加で」

「エリナ様もですか!?」


 俺たちふたりの決断を耳にしたピータは思わず大声をあげる。

 だが、冗談ではなく本気だというのが分かると、「ではそのように」と残して王都へと戻っていった。


「本当によかったんですか、先輩」

「それはむしろこちらのセリフだよ。……エリナの方こそ、もう俺に付き合わなくてもいいんだぞ?」

「形式上は命令でこちらに異動しましたが、実際は私自身の意思でここに来たんです。なのでこのままアボット地方の平和を守るために働きますよ」


 そう言って、彼女は笑ってみせた。

 やれやれ……もうしばらく賑やかな生活は続きそうだな。

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