第68話【幕間】ひとりの騎士の破滅

 ジャスティンたちがいつも通りの生活に戻ったと実感していた頃――ランドバル城では第二回目となる王国議会が開かれていた。

 通常、王国議会で取り扱われる議題に関しては第一回目でほとんど結論が出るため、二回目はその議決確認を行うというのがほとんどだった。

 

しかし、今回に関してはいつもと流れが違う。


 第一回でジャスティンを無実だと訴える者が続出したのだ。

 しかも、その中には騎士団の副団長を務めるサイアン・ベローズが含まれている。

 議会は騒然となった。

さすがにこのままでは収集がつかないということで、第二回ではそれを証明する場となることで閉会。


そして迎えた今回――そのベローズをはじめとするジャスティンの弁護団が改竄された報告書などの物的な証拠や偽りの証言を強要された者が登場するなど、議会は荒れに荒れた。


 こうなってくると、それまでジャスティン無罪説に否定的だった者たちの目つきも変わってくる。そして、疑惑の目は次第に横領罪だと言って偽りの報告書を提出したり、弱みを握って嘘の証言を強要した張本人――ハンクへと向けられた。


 議長から指名されたハンクは青ざめた表情で証言台へと立つ。問いかけに対してはしどろもどろになりながら要領を得ない発言を繰り返し、そのたびに注意を受けた。彼が黒だというのは子どもが見ても分かるほどの動揺ぶりだった。


「終わったな……」

「えぇ……」


 ジャスティンの弁護側に回っているゲイリーとミラッカは膝から崩れ落ち、他の騎士たちに肩を借りながら退室する弱々しいハンクの背中を見つめながら呟く。


「ベローズ副騎士団長の話では、まだまだ余罪があるみたいよ」

「他にもハメられた騎士がいるってわけか……」


 ジャスティンは仲間と上司に恵まれていた。

 窮地に陥った際、手を差し伸べて助けてくれる存在があったからこそ、これまでハメられた騎士たちとは違った結果が待っていたのだ。

 ハンクの誤算はまさにそこだった。

 これまでハメた騎士たちは、皆ハンクと同じで上昇志向が強く、周りを蹴落としてでものし上がってやろうという野心家ばかり。ゆえに、同情したり救ってあげようという者が現れなかったのだ。


 何ひとつ反論できなかったハンクの姿を目の当たりにし、議会の空気は一気に「ジャスティン無罪」の方向へと傾く。

 さらに、過度な出世競争が仲間を蹴落とすという愚行を招くというベローズの発言に、周囲からは賛同の声が相次いだ。

 ――ただひとり、騎士団のトップに立つソラード騎士団長だけは憮然とした表情を浮かべている。ジャスティンが無罪となったことへの不服なのか、それとも別の意図があるのか、ベローズには分かりかねるものであった。


 一方、ゲイリーとミラッカはホッと胸を撫でおろし、ひっそりとグータッチで喜びを分かち合う。

 やがて、話題は今回の功労者へと移った。


「しかし、書類の改竄をよく見抜けたよなぁ。ハンクだって嘘がバレたらまずいから相当な実力者を雇ったはずだが……それを超えていたってわけだからな」

「なんでも、公爵家に仕える腕利きの魔法使いが協力をしてくれたそうよ」

「公爵家って、舞踏会を主催したマクリード家の?」

「えぇ……でも、不思議な縁よね。ジャスティンの無罪を証明してくれた魔法使いの居るマクリード家と、左遷先の領主であるトライオン家が舞踏会をきっかけに急接近するなんて」

「日頃の行いの差だろうな。あいつも上昇志向が強くて出世を追いかけていたが、あれは純粋な向上心から来るものだったし」

「そうね。そこがハンクとの決定的な違いだったわね」


 ふたりは安堵しつつ、近々正式に通達される国境警備任務に向けて準備を整えていこうと話し合うのだった。



 王国議会終了後。

 ゲイリーとミラッカはベローズの執務室へと呼びだされる。

 理由は――国境警備の件について。

 

「単刀直入に言うが、おまえたちの異動は取り消しとなった」

「「……」」

「どうした?」

「いや、なんというか……露骨というか」

「あからさまよねぇ」


 ハンクの退団処分が検討され始められた途端に異動が白紙となる――忖度があった可能性が極めて高い。


 そのため、ベローズはまだ安心しきってはいなかった。

 まだ自分さえも知らない何かが騎士団をよからぬ方向へ動かそうとしている。

 確証は何もないが、言い知れぬ不安が胸中に渦巻いていたのだった。

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