第67話 ピータの報告

 舞踏会から戻ってきた次の日からは、いつもと変わらぬ日常生活が待っていた。

 まずは早朝の農作業。

 村人たちの収入源のほとんどは農業なので、ここは手を抜けない。

 王都の朝市に匹敵する賑わいを見せた作業は昼前に終了。休憩を挟み、午後からはまた別の作業が待っている。ただ、そこは個人でしか対応できない作業が多く、俺やエリナは本来の役目である村の平和を守るために見回りを行うのだ。


 朝の作業を終えた俺とエリナが駐在所へ帰ってくると、


「お待ちしておりましたよ、おふたりとも」


 ポストの上に人語を話す小鳥がいた。


「ピータ? どうかしたのか?」


 ベローズ副騎士団長の使い魔であるピータだった。

 彼がここにいるということは……副騎士団長から何か伝言でも受け取ったのかな?

 近づくと、ピータは「コホン」と咳払いを挟んでからここへ来た理由を告げる。


「まもなく第二回王国議会が開かれます。ここでの結果次第では……あなたにかけられていた横領疑惑が晴らされるかもしれません」

「っ! そうか……いよいよか……」


 舞踏会のことで手一杯だったから忘れていたけど、王国議会は今日開かれるんだったな。

 

「情勢はどんな感じだ?」

「ハッキリ申し上げますと――あなたの無実はほぼ間違いなく証明されるでしょう」

「そ、そこまで決定的な証拠を掴んだの!?」


 俺よりもエリナの方が驚いてピータへと詰め寄る。

 その迫力に押されながらも、ここまでの状況の変化をピータは細かく教えてくれた。


「いろいろとあるのですが、一番は経費の管理記録に改竄の痕跡が発見されたことです」

「記録の改竄だって?」


 あれはただの記録じゃない。

 特殊な魔道具を介し、記録者の魔力を記憶しておく。魔力の質は指紋と同じようにひとりひとり微妙に異なっており、この世に同じ質の魔力を持った人間はいないとされている。


「だが、報告書によれば横領が見つかった記録に残された魔力は俺のものだと証明されていたはずだ」

「それが嘘だと判明したのです」

「う、嘘?」

「恐らく腕のいい魔法使いを雇って偽ったのでしょうが、その魔法使いよりも魔法兵団に所属する魔法使いの方が優秀だったため、発覚したのです。とはいえ、見抜くのにはかなりの時間を要しましたが」

「この際、かかった時間はどうでもいいよ。俺がやっていなかったと証明してくれたのならありがたい」

 

 これはもう決定的な証拠だろう。

 ――問題は、その魔法使いとやらを雇った人物の正体だ。


「魔法使いを雇っていたのは誰なんだ?」

「残念ながら、そこまでは……現在、魔法兵団が総力を挙げて調査しております」

「魔法兵団が?」


 正直、知り合いもあまりおらず、関係性は薄いのだが……どうして彼らがそこまで協力してくれるのだろう。ダメもとで理由を尋ねると、ピータから返ってきたのはいかにも魔法兵団らしい答えだった。


「その件についてはベローズ様も気にされていたようで、魔法兵団長にお話を聞いてきたそうです――結果、魔法を悪用されたことに憤慨している者が非常に多いようで」

「な、なるほど……」


 仲間を罠にハメる行為に魔法を使用した――これが、魔法兵団に所属する魔法使いたちの怒りを買ったらしい。彼らからすると、「魔法を侮辱された!」という認識になるのかな。


 何はともあれ、無実が証明されそうでひと安心だ。

 ……逆に、俺を訴えて左遷させた張本人であるハンクは窮地に立たされたな。

 俺としては、このアボット地方に勤務して新たに気づかされる点が多かったため、これも自分の成長に欠かせないことだったと左遷を前向きに捉えてはいるのだが……果たして、この不正を騎士団がどう処分するのか、結果を待つとしよう。

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