第66話 新しい目標
次の日。
俺たちはアボット地方を目指してマクリード家の屋敷を出る。
「なんだか濃い一日でしたね……」
「まったくだな」
不思議と馬車に乗り込んでから急にドッと疲れが出た。ブラーフさんやマリエッタさんも同じように疲労困憊って様子だったし、今回の舞踏会は俺たちにとって心身にかなりの負担をかけているようだ。
ただ、一番疲れているのはドイル様だろう。
これまでにまったく経験のない大舞台へいきなり招待され、大勢の注目を集める中、公爵家令嬢であるアリッサ様のダンスパートナーを務めた。以前助けた少女がアリッサ様だったというまるで物語のような展開も手伝い、ドイル様の活躍はあっという間に国中の貴族たちが知るところとなる。
きっと、これからアボット地方は忙しくなるぞ。
とはいえ、急に人が押し寄せるってわけでもないから、急激に多忙となって苦労するってレベルじゃないとは思う。仮にもしそうなれば、俺やエリナ、マリエッタさんやブラーフさんたち使用人、そして領民たちがサポートに名乗りをあげるだろう。
舞踏会での影響を考えているうちに、もうカーティス村が見えてきた。
行きは長く感じたが、逆に帰りは異様に早い到着で驚いた。かかった時間に変わりはないのだが、気持ち的な問題かな。
「お帰りなさいませ、ドイル様」
「ただいま、ガナン。村の様子は?」
「変わりなく平穏なままです」
「それならよかった」
舞踏会という経験のない場所で神経をすり減らし、さらに長時間の移動も加わって疲労はかなり溜まっているはず……それでも、ドイル様は領民であるカーティス村の人たちに帰還した報告をすると言って立ち寄った。あの若さでそこまでやれるのは本当に凄い。父親である先代当主の教育の賜物だな。
村人への顔見せが終わると、そのまま屋敷へ移動。
俺とエリナはそこまで護衛し、再び村へと戻ってきた。
「華やかなお城の雰囲気も好きですが、やっぱり我が家が一番ですね!」
「ははは、気持ちは分かるけど、ここは我が家じゃないだろ?」
「先輩、ここで必要なのは正論じゃなくて共感ですよ? 『俺もそう思っていたんだ。ここは俺とエリナの我が家だよ』って耳元で囁かれたいんですよ?」
耳元で囁く意味があるのかどうかはさておいて、エリナがこの駐在所を我が家のように思ってくれていたのは素直にありがたかった。
舞踏会に参加していた貴族ほどではないにしろ、彼女も裕福な家庭の出身。この狭い駐在所での生活がストレスになっていないか心配していたのだ。
「先輩? どうかしました?」
「いや、なんでもないよ。それより入ろうか――俺たちの家に」
「っ! は、はい!」
元気がいいなぁ。
これが若さなのかね。
――って、俺もそこまで年齢が離れているわけじゃないんだから、ジジ臭いこと言っていないでちゃんとしないとな。
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