第63話 公爵家で一泊

 ドノルド様のご厚意により、俺たちは公爵家の屋敷で一泊する流れとなった。

 ――って、自然な感じで言っているが、これは予想外すぎる展開だ。

 アボット地方はここからもっとも離れた場所にある領地のため、どこかの町の宿で一泊をしてから帰ろうと思っていたのだが、どうもそういう手段を用いるのはトライオン家だけのようで、ドノルド様は随分と驚かれていた。

 まあ、他の貴族は別宅みたいなのがあって、そこに泊まってから本宅に帰るのだろうが、トライオン家にはそんなのないしな。


 夕食後も仲良く話し込んでいるドイル様とアリッサ様を横目で見ながら、大人組は当主であるドノルド様と世間話で盛り上がる。本来ならばこうしてのんびりと話し合えるような御方ではないのだが、そのあまりの気さくさからすっかり緊張感が抜けていた。


 中でもドノルド様の関心を引いたのはアボット地方の環境についてだった。


「自然豊かな場所という話は以前から耳にしていたが、それ以外に何も情報がなくてね。気にはなっていたんだ」


 どうやら昔から関心を持っていたらしい。

 しかし、なんでまた公爵家の当主が辺境領地であるアボット地方を気にかけていたんだ?

 理由を尋ねようか迷っていると、その気配を察したのかドノルド様の方から話を切りだしてくれた。


「先代当主――つまり、私の父の時代の頃だが、アボット地方にはかつて魔鉱石の採掘場があってね。今はもう廃鉱山となってしまったと風の噂で聞いたが」

「魔鉱石……」


 初耳だった。

 魔鉱石といえば、この世界に生きる者にとって欠かせない生活必需品のひとつ。わずかな魔力で水が溢れだしたり、熱を帯びたり、種類によってさまざまな効果があるのだ。


 しかし、マクリード家の先代当主の時代か……俺やエリナ、そしてマリエッタさんあたりは年齢的にその話を知らない。可能性があるとすればブラーフさんか。


「ブラーフさん、魔鉱石の採掘場があったって話は本当なんですか?」

「え、えぇ……ですが、ひとつも採れなくなり、採掘業は廃れてしまいました」


 今も続いていたなら、産業面での心配はもう少し薄れていたのだろうが……魔鉱石が採れる鉱山は世界的にも珍しいからもったいないな。


「では、廃鉱山となってからは誰も山に近づいていないと?」

「そのはずです。近くには鉱夫たちの暮らす村もありましたが、今は誰も住んでいないはずです」

「なるほど……」


 ドノルド様は何かを考え込むように俯き、しばらくして何かを決意したのか勢いよく顔をあげた。


「その話は現領主であるドイル殿を交えてじっくりしたいですな」


 腕を組み、そう告げたドノルド様。

 もしかして……トライオン家を舞踏会に招待した本当の理由って、魔鉱石の鉱山について何か話をするつもりだったのか?

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