第62話 舞踏会が終わって

 いろいろとトラブルはあったが、舞踏会は無事に終了。

 ダンスを終えてからも、アリッサ様はドイル様にベッタリだった。年も同じで運命的な出会い方をしているのも関係しているのか、すっかり意気投合している。


 その光景を遠くから眺めているアボット地方の大人組――俺とエリナとマリエッタさんとブラーフさんは全員頬が緩んでいた。

「これでアボット地方は安泰だ!」――という話ではなく、ドイル様に年齢が近くて親しい間柄となれる人が現れてくれたという喜びからの笑顔だ。


 特にマリエッタさんとブラーフさんは感慨深いだろうな。俺やエリナはまだアボット地方に来て日が浅いが、あのふたりはドイル様が幼い子どもの頃からお世話をしてきたからな。早くに父親を亡くして苦労している分、今のように周囲から認められつつある光景が輝いて見えるのだろう。


「まさかこんな展開になるとはな……」

「公爵家のご令嬢が気難しいという噂は以前から耳にしていましたが、ドイル様とあんなに仲良くなるなんて……」


 舞踏会が終わり、会場から人の数が減り続けてもふたりの会話は終わる気配がない。できればこのままにしてあげたいところではあるが、これ以上は時間的に難しいだろう。宿屋に移動しなくちゃいけないし。


 声をかけようとしたが、それよりも先に俺たちのもとへやってきた人物がいた。

 それはあまりにも意外な大物だった。


「君たちはトライオン家の関係者かい?」


 振り返った俺たち四人が目の当たりにしたのは、マクリード家の当主でアリッサ様の父親でもあるドノルド様だった。


「ド、ドノルド様!?」


 慌てて跪こうとするとも、「楽にしてくれて構わない」というドノルド様のひと言で全員の動きが一斉に止まる。

 そりゃそうだ。

 相手は公爵家の当主。

 平民の俺たちが気安く話をしていい存在ではない――まさに雲の上の存在だ。

 だが、ドノルド様は偉ぶった態度を見せることなく、穏やかな口調で語りかけた。


「あの子があそこまで心を許す人がいるのは珍しくてね。もしかして、あの子がグラッセラから抜けだした時に助けてくれたというのも彼なのかい?」

「え、えぇ」

「やはりそうだったか。アリッサは名前を教えてはくれなかったが、とても勇敢だったと嬉しそうに話してくれてね。私も以前からどんな子なのだろうと楽しみにしていたのだ」


 アリッサ様がそんなことを……これはもしかするともしかするんじゃないか?

 まあ、実際はおふたりが決めることなので外野はこれ以上とやかく言えないが。

 しかし、当主であるドノルド様がドイル様を好意的に見てくれているのは大きな収穫と言えた。

 というか、公爵家ともなると態度はもっと尊大で冷徹なのではってイメージもあったが、ドノルド様はまったく違うな。やはり、会ってもいないうちから相手の印象を決めてかかるのはよろしくないな。過去の出来事から妙な偏見を持ってしまったみたいだ。


 ともかく、ドノルド様が穏やかに接してくださったおかげで俺たちの間に漂っていた張り詰めた空気はあっという間に解消され、ついには談笑するくらいにまでリラックスできていた。

 さらに、


「あなた方の話はもっと聞いていたいな。どうだろう。今日は時間も遅いし、あのふたりもまだまだ語り足りないようだから――泊っていっては?」


 まさかの提案が飛びだしたのだった。





※18時にも投稿予定!

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