第56話 いつもと違う
ハンクの様子がおかしい。
冷静で落ち着いたものの言い方に、スマートな立ち振る舞い……本来ならこっちの方が遥かにまともなのだが、普段の言動からハンクがこれをやると浮きまくるというか、とにかく怪しく見えてくるのだ。
それは俺だけじゃなく、エリナも感じているようだった。
「絶対に何か裏がありますよ、先輩」
「うぅむ……」
さすがにハンクが関与しているとは……いや、断言できないな。
今のヤツは騎士団の中でも厳しい立場にあると聞く。この舞踏会が終わった二日後に行われる第二回の王国議会では、間違いなく吊し上げられるだろう。ゲイリーやミラッカを見ていてもそれは間違いない。
この状況からヤツが生き抜くためには、名家である実家だけでなくさらに強い後ろ盾を用意する必要があった。
それが公爵家令嬢のアリッサ様なのだ。
当主であるドノルド様は政略結婚上等という考えを未だに持っており、娘を救いだしてくれた者を気に入って婚約を結ばせるというシナリオはできなくもない。
もっとも、そこまでうまくことが運ぶとも思えないのだが、今のハンクにはそれが最善の策に映っているのだろう。
とはいえ、ヤツは腐っても俺と同じ聖騎士。
腰には同じ鍛冶職人の手掛けた聖剣がある。
まあ、今もだいぶグレーなところが多いのだけど……もしアリッサお嬢様の失踪に関与しているとなったらもう取り返しがつかない事態となるだろう。
静かに後を追う――が、それからハンクに怪しい動きは見られない。
だが、ヤツの周りはデラント家の使用人たちが囲っており、どうも彼らにアリッサ様の居場所を捜させているようだ。数の多さで他者をリードしようという作戦らしいが……今のところは結果が出ていない様子。
まだ何か隠し持っている可能性もなくはないが、さすがにこれ以上は追っても無駄そうなので作戦を変更。俺たちは独自にアリッサ様の行方を追うことに。
だが、すでにかなりの数の人が捜索に加わっている。
にもかかわらず見つからないというのは……常に騎士たちが屋敷の周辺を見張っているし、結界魔法もあるのだから、第三者による誘拐の線は薄い。
となると、やっぱりこの屋敷のどこかにいるんじゃないかって思うんだがなぁ。
「もしかしたら……」
舞踏会が始まるまで残り三十分を切った頃、ドイル様が何かを思いついたようだ。
「何か気づかれましたか?」
「いや、これだけ捜して見つからないってなると……部屋にこもっているだけじゃないのかなって。アリッサ様にとってこの舞踏会が望ましいものでないのなら、終わるまで外には出ないと言い張っているとか」
「さ、さすがにそれは……」
「いえ、案外その線はあり得ますよ」
どうやらエリナも同じ考えを抱いたらしい。
「頑として部屋から出てこないなら、使用人たちに命じていなくなったってことにしてやり過ごそうとしているんじゃないですかね。なんだかあの騒ぎ方も狙っているというか、わざとらしくなかったですか?」
「ま、まあ、確かに……」
わざとらしいというか、タイミングがいいというか、とにかく仕組まれていたと言われたら納得する動きだった。
だが、もしそうだとしたら俺たちとしてはお手上げだぞ?
※18時にも投稿予定!
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