第57話 お嬢様の気持ち
俺たちは真相を確認するため、アリッサ様の私室を目指した。
会場から離れているその部屋の前にはたくさんの使用人が集まっており、部屋の中へ何かを語りかけているようだった。
「まさか、本当に部屋から出てこなかっただけとは……」
「ドノルド様としては、とりあえず今日はお流れにして、説得し終えてから再開しようという腹積もりなのでしょうが……あの様子だとそれも難しそうですね」
「…………」
俺とエリナがどうしたものかと立ち尽くしていると、ドイル様は静かに部屋へと近づいていった。ひとりで行かせるわけにもいかないので、俺たちふたりも後を追う。やがて、執事のひとりが接近するドイル様の存在に気づいた。
「ど、どうされました?」
「彼女と話がしたいのですが」
「そ、そう申されましても……」
長らく屋敷に仕えている自分たちの話に耳を傾けないのに、初対面の若造に何ができるのか――とでも言いたげな顔の老執事。
ただ、俺も彼と同じ意見だ。
相手は公爵家令嬢。
そして今日が初対面。
話を聞くどころか会ってさえもくれないんじゃないか?
しかし、なぜかドイル様の顔つきは落ち着いていた。
その反応に、俺とエリナは思わず顔を見合わせる。
「ド、ドイル様、何か策があるのですか?」
「策なんて何もないよ。――でも、たぶんアリッサ様は僕の話を聞いてくれるんじゃないかなって」
「ど、どうしてそう思われるのですか?」
エリナの言葉に、ドイル様は微笑みながら答える。
「これは勘だけど……僕とアリッサ様は前に会ったことがあると思うんだ」
「「えぇっ!?」」
それは初耳だぞ。
いや、それより気になるのは「あると思うんだ」という表現……公爵家のご令嬢に会うとなったら、相応の舞台が用意されるはず。ましてや、トライオン家は王都からもっとも離れた辺境領地を治めてきた貴族。現に、舞踏会という華やかな場所も始めて招待されたとドイル様は言っていた。
なのに、以前どこかで会ったかもしれないって……そんなことあり得るのか?
「僕が話してみてもいいですか?」
「ど、どうぞ」
老執事や他の使用人たちは次々と身を引いて部屋までの道を作りあげる。そこを真っ直ぐに進んでいき、ドアの前まで来ると大きく深呼吸をしてから話しかけた。
「アリッサ様……僕はトライオン家当主のドイル・トライオンです」
まずは自己紹介から入った。
当然何も返ってこない――と、思っていたら、
「トライオン家?」
これには俺もエリナも使用人たちも騒然となる。
まさか、本当に会ったことがあるのか?
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