第55話 違和感
アリッサお嬢様が姿を消したことで、屋敷内のざわつきは徐々に拡大。
ついに他の参加者にも現状が知られるようになるのだが、それに対する反応についてはさまざまであった。
ある者は「せっかく予定を空けておいたのに」と不満を口にし、ある者は次の予定を確保するために周りの者たちとスケジュールの打ち合わせを始める……こうして見ると、誰ひとりとしてお嬢様の身を案じている者はいないな。
きっと、今日だけでなくほとんど毎日がこんな調子なのだろう。
そう思うと、逃げだしたくなったアリッサ様の気持ちは分からなくもない。
とりあえず、俺たちも今後の動きを確認しておくためにドイル様へ事情を説明したのだが、
「心配だ……僕、探してみるよ」
周りの男たちとは違い、純粋にアリッサ様を心配して捜索に当たると立ち上がるドイル様。
これはきっと本心なのだろう。
日頃の様子を見ていれば、それが分かる。
だが、捜すと言ってもここは公爵家のお屋敷。あちこちをウロチョロと歩き回っていたら逆に不審だと疑いをもたれてしまうかもしれないので、ドイル様には俺とエリナが同行することに。マリエッタさんたちには控室へ残ってもらい、何か動きがあれば知らせてもらえるようにしておいた。
というわけで、俺とエリナ、そしてドイル様の三人によるアリッサ様の捜索が始まったわけだが……当然というべきか、見つからない。
「もしかして、外かなぁ……」
「あちらも使用人たちが手分けして捜しているようですし、我々は屋敷内の捜索にとどめておきましょう」
「うん。そうだね」
俺たちはそのまま屋敷内を歩き回ってアリッサ様がいないか見て回っていた――と、
「おやおや、こんなところで会うなんて奇遇だねぇ」
……このタイミングでまた面倒臭いヤツと出会ったしまった。
「ハンクか。こんなところで何をしている?」
「何って、アリッサ様が行方不明になっていると聞いたから捜しているんじゃないか」
わざとらしいオーバーアクションで語るハンク。
その表情にはさっきまでと違ってどこか余裕さえ感じられる。一連の言動からも、ヤツが本気でアリッサ様の安否を心配しているとは到底思えないのだが……逆にそれがめちゃくちゃ怪しく映った。
ヤツのことだ。
これだけ人と時間をかけてアリッサ様を捜索しているのに、手がかりひとつ掴めないとなったらもっと躍起になっているはず。もし発見できたら、マクリード家の当主であり、アリッサ様の父親でもあるドノルド様に深く感謝されるだろうからな。どんな手を使ってでも捜しだそうとするはず。
それが随分と大人しい。
今も「では失礼するよ」とろくに話もせずさっさと立ち去っていった。もっとこう、悪口のひとつでも言い残していくとは思ったのだが。
「なんだかいつもと様子が違ってまともそうでしたね」
それだと普段はずっとまともそうじゃないのかとエリナの発言に口を挟みたかったが、実は何も間違ったことを言っていないなと思ってやめておく。
それに……この発言が良いヒントになっていたと俺は気づいたのだ。
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