第54話 消えたお嬢様

 まもなく舞踏会が始まろうとしているのに、主役であるマクリード家のご令嬢が忽然と姿を消した。

 ゲイリーやミラッカはそう語っていたものの、俺はすぐには信じられずに近くの使用人に尋ねてみたのだが……まさかの予想的中。さすがにそれを聞いて黙ってはいられない。

 

「すぐに捜さないと!」

「だな。――でも、おまえは自分の主人の護衛から離れるなよ」

「そうね。こういう仕事は私たちの役目よ」

「うっ……」

  

 正論だ。

 ここはふたりに――いや、屋敷の護衛についている騎士たちに任せるしかないだろう。というか、騎士たちの監視の目を盗んで消えるなんて起こり得る事態なのか?

 転移魔法なんかを使えば周囲にバレずに屋敷へ侵入し、お嬢様をさらっていくって芸当ができなくはない。だが、そういった事態を想定して周辺には結界魔法が張られており、屋敷の中でそんな魔法を使用すればすぐに発覚する仕組みとなっている。


 となると、残された可能性としては――


「お嬢様はまだ屋敷内のどこかにいるはずだ」

「わ、私もそう思います」


 俺とエリナの考えは一致していた。

 すでにゲイリーとミラッカは本来の任務に戻るため立ち去ったあとということもあり、この話を伝えられなかったが、俺でも思いつくようなことならきっと彼らも気づくはず。問題はそれがどこかという点だ。


「このまま自分が姿を現さなかったら舞踏会が中止されると考えて隠れているのでしょうか」

「どうだろうなぁ……そんな単純な話じゃないけど」


 どうにもそこが引っ掛かるのだ。

 遠くへ逃げだしたというならまだ分かるのだが、屋敷内にこもっていても何も解決はしないだろう。舞踏会だって、日を改めてって話になるはず。相手側からしても、公爵家との仲を保ちたいはずだから再開を望むだろうし。根本的な解決とはならない。


 なら、アリッサ様はなぜ行方をくらましたのか。

 エリナと一緒に悩んでいたら、


「どうかしましたか?」


 そこへメイド長のマリエッタさんがやってきた。

 ――と、いうことは、ドイル様の準備も整ったみたいだな。


 そのマリエッタさんだが、周囲が騒がしいことにすぐ気がついた。


「何かあったのですか?」

「アリッサ様がいなくなったらしい」

「えっ!? で、では、舞踏会はどうなるのですか!?」

「今のところ特に発表はないが……このまま姿を見せないと中止になりそうだ」

「そんな……」


 落ち込むマリエッタさん。

 ドイル様の頑張りが無駄になってしまうと思っているのだろうが、きっと近いうちに再開されると伝える。


 それにしても、アリッサ様はどこへ行ったのだろう。

 何事もなければいいのだが。



※本日も18時にもう1話投稿予定!

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