第40話 招待状

 トライオン家に届いた舞踏会の招待状。

 けど、一体どこで開催される舞踏会なんだ?

 以前ブラーフさんと世間話をしている際に辺境領地であるこのアボット地方を訪れる貴族はほとんどいないと聞いている。なのに、どうしてまた招待状をという素朴な疑問があった。


「招待してくれたのは……マクリード家なんだ」

「「マ、マクリード家!?」」


 あまりにも意外すぎる名前に、俺もエリナも驚きの声をあげる。

 マクリード家といえば、王家とつながりの深い公爵家。

 前に大臣との会談のために城を訪れた際に警護をしていたが……なんというか、凄まじいオーラが漂っていて、「これぞ大物」と感心したのを覚えている。

 そういえば、確かにマクリード家は年に一度だけ盛大に舞踏会をするんだったな。貴族だけでなく、経済界の重鎮や他国との商売も手掛ける大商会の代表などを屋敷に招いて行われる優雅なパーティーだ。


「マクリード家の舞踏会ですか……凄いところに招待されましたね」


 そう語るのはエリナだった。

 あの口ぶりからして、出席した経験があるのか?


「もしかして、エリナはパーティーに出席したことが?」

「父の付き合いで、一度だけ招待客として行きましたね。当時はまだ幼い子どもだったのでとても退屈でした」


 つい忘れがちだが、エリナも名家のお嬢様なんだよな。

 騎士団でも狙っている男が多いらしいが、父親があのベローズ副騎士団長となると二の足を踏む者もいるようで……婚期が遅れないといいのだけど。


 ――って、話が脱線してしまった。


「舞踏会へは毎年参加されているんですか?」

「いや、父上が招待をされたという話は聞いていないけど……」

「わたくしもこの屋敷に勤めて長くなりますが、舞踏会への招待状が来たのは今回が初めてでございます」

「それはまた妙ですね」


 縁も面識もないトライオン家をなぜ舞踏会に招待するのだろう。

 何か裏がありそうな予感がするぞ……あっ、もしかして俺とエリナが呼ばれた理由ってそれなのか?


「いろいろと謎が多いようですね」

「そうなんだ。僕としては公爵家からの招待なので参加する意向ではあるんだけど……念のため、君たちふたりに同行してもらいたい」

「お任せください」


 呼ばれた理由はともかく、これはトライオン家にとっても大きなチャンスだぞ。この舞踏会をきっかけに、アボット地方を発展させるつながりが築ければ……課題は多いが、試してみる価値は大いにある。


「では、使用人一同も舞踏会成功のために微力ながらお手伝いいたしますぞ」

「まずは着ていく服を調達しなければなりませんね」


 ブラーフさんもマリエッタさんも、ドイル様の晴れ舞台に張りきっているようだ。

 俺たちは直接舞踏会にかかわりを持つわけじゃないけど、ドイル様が安心して挑めるように準備をしていかないと。

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