第41話 舞踏会の準備
屋敷から戻った俺たちは早速遠征の準備を始めた。
日取りは今から二週間後。
それまでにすべてを万全にしておかなくてはいけない。
だが、今回の遠征は騎士団の時にしていたものとは少し異なる。
何せ多くの貴族や大物が集まる舞踏会――王都にある剣術道場に住み込み、朝から晩まで剣術と勉強に明け暮れていた俺には無縁の世界なのだ。
「うーん、私たちもドレスとか着ていった方がいいんでしょうか」
寝転がるリンデルの頭を撫でながら、エリナが呟く。
「いや、その必要はないだろ……」
護衛騎士という立場ではあるが、正式に舞踏会へ参加するのは今回が初となる。なので、段取りなどはまったく分からなかったのだ。
こういうのはやはり経験者からいろいろと話を聞くべきなのだろうが……
「舞踏会の様子を知っている人がいてくれたら、準備も捗るんだけどなぁ」
「いやいや、私がいるじゃないですか」
自らを指さしてドヤ顔をしているエリナだが、
「さっき何を着ていくか迷っていたじゃないか」
「あ、あれは騎士として参加するのが初めてなので勝手が分からないというだけですよ。全体の空気とか注意点とか、そういうのはちゃんと覚えていますから」
「それなら心強いな」
「まったく感情のこもっていない声……さては信用していませんね?」
頬を膨らませながらエリナは抗議する。
まあ、実際にマクリード家の舞踏会に参加した経験があるのは彼女しかいないため、体験談は大きなヒントになりそうだ。
それから話はマクリード家の狙いへと変わっていく。
「どうしてマクリード家はトライオン家に声をかけたのでしょうか」
「それについては皆目見当もつかないな」
公爵家がこれまで付き合いのまったくないトライオン家に招待状を送った理由――ここに何か隠されているような気がしてならない。
「この手の事情はエリナの方が詳しそうだが」
「そうですねぇ……サッパリ分かりません」
今度はキリッとした表情で言いきられた。
……あれだけ豪語していた割には得られた情報がほとんどないな。
とはいえ、今回の件については何度も舞踏会に参加しているような人でも真相を確かめるのは困難か。それこそ、意図を知るのは招待状を送った張本人――つまり、マクリード家の当主のみ。
「何もなければいいのだが……」
「今回ばかりは大丈夫だと思いますけどねぇ。相手は公爵家ですし」
エリナの言うことも一理ある。
大物が集う舞踏会という場で無茶はできないだろう。心配があるとすれば、襲撃しようとする輩がいるかもしれないって事態だが、騎士団や魔法兵団が総力を挙げて守りに入るだろうからそれも難しいだろう。
やはり俺の思い過ごしなのか?
もはや何が正解なのか分からなくなって唸っていると、
「慎重にことを運ぶのは先輩のいいところですけど、考えすぎてドツボにハマるのはいただけないですよ? お父様もよく言っています」
「ぐっ……確かに、そうかもな」
「それに、先輩だって聖騎士という騎士団の中でも数人しかいない優秀な人材なんですから気をつけてくださいよ? よからぬ誘いがあるかもしれませんからね」
「どんな誘いにも乗らないよ。今はそれどころじゃないしな」
気を付けるのはむしろ俺って……まさか、そんなことあるわけがない。
「くぅん……」
「ごめんね、リンデル。舞踏会はさすがに連れていけないのよ。村のみんなの言うことをよく聞いて、バルクやレオンと一緒に待っていてね」
置いていかれると怖がっているリンデルに、エリナは優しく声をかける。その穏やかな光景を眺めていたら、少し心が楽にあったよ。
余計なことは考えず、俺は自分の役割をキッチリと果たす。
舞踏会はそれでいこう。
※本日は18時にも投稿予定!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます